COLUMN

社内LGBTQ施策とは

なぜ、企業がLGBTQ施策を講じる必要があるのか? どんな施策を進めたらよいのか?について、お伝えします。

 企業や団体が、LGBTQも生き生きと働けるような職場環境を整えていくことを「社内LGBTQ施策」とか「LGBTQダイバーシティ推進」とか「LGBTQへの取組み」などと言ったりします。
(※「LGBTQ対応」と呼ばれることもありますが、「対応」ですと、LGBTQという「問題のある人たち」への対処、のようなニュアンスも感じ取られますし、そもそも当事者が動き始める前に会社が率先して進めていくケースも多いので、適切ではないと考えます。「施策」が妥当でしょう)

 ここでは、なぜ、企業がLGBTQ施策を講じる必要があるのか? どんな施策を進めたらよいのか?について、お伝えします。

なぜ企業がLGBTQ施策を講じる必要があるのか

 まず第一に、SOGIハラを防ぐことが義務付けられたからです。
 2019年、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法が成立し、SOGIハラならびにアウティングもパワハラであると見なされることになりました。各企業等や自治体は、2020年6月以降(中小企業等は2022年4月以降)の措置の実施が義務づけられています。
 指針で示されたSOGIハラの例として、以下のようなことが挙げられます。

  • 相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含め、人格を否定するような言動を行うこと。
  • SOGIを理由に、労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすることや、一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること(SOGIを理由にした仕事からの排除はパワハラに該当すると国会で答弁されています)
  • 「彼氏(彼女)はいるの?」など交際相手について執拗に問うこと(厚労省はパートナー関係のようなプライベートに関するハラスメントを「個の侵害」に当たるパワハラとして周知してきました。パートナーが同性である場合、より深刻であると言えます)

 指針を踏まえると、「オカマ」「ホモ」「レズ」などの差別用語はもちろん、「ひょっとしてこっち系?」などと手の甲を反対側の頬に当てる仕草や、職場でのLGBTQに対する中傷やいじめ(陰口)全般がSOGIハラに含まれますし、中性的な人を営業職や店頭での仕事から外すなどの排除なども該当します。
 こうしたことが社内で起こらないよう、対策を講じていくことが求められます。
(詳しくはSOGIハラとはをご覧ください)

 一方、パワハラ防止関連法が制定される以前にも、すでに多くの企業がCSR、ダイバーシティ&インクルージョン施策の一環として社内LGBTQ施策を実施してきました。
 以前は、LGBTQを擁護するような明確な法律がなかったこともあり、世間への理解が浸透していなかったため、職場でLGBT施策を進めようとすると、周囲から「なぜそんなプライベートなことを会社に持ち込むのか」「時期尚早だ」などと反対にあい、なかなか進まない…ということが多かったと思いますが、そのような状況でも、施策に着手する企業が現れたのは素晴らしいことです。先行したのは外資系企業です。すでに本国で当たり前になっていたLGBT施策を日本にも取り入れようと当事者やアライの方たちが動きはじめたのです。日系企業についても、2015年に渋谷区で同性パートナーシップ証明制度や区内の事業者にLGBTQへの最大限の配慮を求める内容を含む新条例が施行されたことをきっかけに、急速に施策を進める企業が増えていきました。
 2017年には五輪に関わる全ての企業がLGBT施策を求められることになり、また、経団連が会員企業に対してLGBT施策を実施するよう提言するなど、いよいよ「LGBT施策待ったなし」という空気が醸成されていきました。

 欧米ではLGBTQの権利擁護は女性や有色人種と同様の公民権運動、すなわち人権問題(社会的課題)と認識され、LGBTQもストレートと平等に扱われなくてはならないとして、企業が率先して支援をはじめたという流れがあります。1992年、「フォーチュン500」企業として初めて、リーバイスが、同性パートナーを持つ従業員への福利厚生=ドメスティックパートナー制度を実施し、他の企業にも広がっていきました(2010年までに「フォーチュン500」企業の1/3超がドメスティックパートナー制度を取り入れました)
 アメリカでは、世界的な人権団体であるヒューマン・ライツ・キャンペーンが「Corporate Equality Index」という企業のLGBT施策を評価する指標を策定し、点数をつけて発表しはじめました。これにより、大手企業の多くがLGBTQ施策を進めることにつながりました。
 LGBTQ差別を放置することで優秀な人材が他社に流出するよりは自社にとどめておいたほうがいい(離職防止=リテンション)、社内の人材の多様性を確保することでイノベーションにつなげたいとする企業の経営戦略としても、LGBTQ施策の必要性が認知されていきました。

 また、LGBTQ施策を行わず、差別が温存されている企業には、リスクもあります。
 職場でのトランスジェンダーへの対応をめぐってこれまで数件、訴訟が起こされています(経産省愛知ヤクルト工場、また、会社名は非公開ですが、トランスジェンダーの解雇を無効とした判例などもあります)。差別問題で訴訟になると、勝ち負けはともかく、企業(や官庁)のイメージダウンになるおそれが当然あります。

 より根本的な話をすると、そもそも同性愛やトランス的な現象は自然界にも見られ、人間界でも古代から世界中で確認されてきた(普遍的に存在してきた)にもかかわらず、ある特定の宗教や社会が、それらを「異常」「異端」「倒錯」「病気」「犯罪」などと見なしてきた(時代や社会によって異なる=恣意的)ということがあります。キリスト教社会ではずっと同性愛は違法とされ(オスカー・ワイルドなどは実際に投獄されています)、ナチスなどは同性愛者を収容所に入れて虐殺しました。戦後もしばらく抑圧は続きましたが、1969年のストーンウォール暴動をきっかけに解放運動がブレイクし、世界中でプライドパレードが行われるようになり、LGBTQの権利擁護運動が盛んになっていったのです。(そういったお話を盛り込んだ研修も、OUT JAPANは得意としています。お問い合わせください

 企業が社内LGBTQ施策を進めなければいけない本質的な理由とは、未だにLGBTQ差別禁止法や同性婚なども認められておらず、さまざまな社会的困難に直面しがちな当事者の従業員(や取引先や顧客)への支援を進めることにあると、OUT JAPANは考えています。そのために、アライになろう、アライを増やしていこうと呼びかけ、活動しているのです。

どんな施策を進めたらよいのか

 パワハラ防止関連法に定められたSOGIハラ・アウティングを防ぐための措置として、以下のことが義務となっています。

(1) SOGIハラ・アウティングがあってはならない旨や懲戒規定を定め、周知・啓発すること
(2) 相談窓口を設置し周知するとともに、適切に相談対応できる体制を整備すること
(3) SOGIハラ・アウティングの相談申し出に対する事実関係の確認、被害者への配慮措置の適正実施、行為者への措置の適正実施、再発防止措置をそれぞれ講じること
(4) 相談者・行為者等のプライバシー保護措置とその周知、相談による不利益取り扱い禁止を定め周知・啓発すること

 これを踏まえ、職場でSOGIハラ・アウティングが起こらないようにするために、具体的にどのような施策が必要になるかを整理すると、以下のようなことになるでしょう。

(a) 社内規定などでLGBTQ差別禁止やアウティングの禁止を明文化するとともに懲戒規定も定める
(b) 全社員に向けてLGBTQ研修を実施。そもそもSOGIハラ・アウティングとはどういうことなのか(LGBTQへの理解、配慮を学ぶ)、社の規定はどうなっているのかを周知する
(c) 適切に相談対応できる窓口を設ける(万が一、相談に当たる担当者がしっかり研修を受けていない場合、二次被害が起こる可能性もあるため、相談員は独自に専門的な研修を受ける必要がある)
(d) 万が一、職場でSOGIハラ・アウティングが起こってしまった場合、相談窓口だけでなく、適切に対応するチームを作る体制が整えられているとよい

(OUT JAPANではLGBTQ研修相談窓口研修社内LGBTQ施策のサポートも行っています。いかにアライを増やしていくか、ということを重視しています)

 一方、上記のような施策だけでは、トランスジェンダーのトイレ利用に関する配慮など、取りこぼされてしまう部分もあります。取り組むべき事柄はもっと多岐にわたっています。どのような事柄でしょうか?
 アメリカには「Corporate Equality Index」という企業のLGBTQ施策を評価する指標があるとお伝えしました。これを参考にしながら日本でも「PRIDE指標」という評価指標が2016年に策定され、応募企業に対してゴールド、シルバー、ブロンズの3段階で認定・表彰が行われています。
 ご参考までに、評価項目の概要をお伝えします。

  1. Policy:行動宣言
    会社としてLGBTQに関する方針を明文化し、社内・社外に公開している。
  2. Representation:当事者コミュニティ
    従業員がLGBTQに関する意見を言える(社内のコミュニティ、社内・社外の相談窓口、無記名の意識調査等)。アライを増やす取組みがある。
  3. Inspiration:啓発活動
    従業員に対してLGBTQへの理解を促進するための取組み(研修、啓発用メディア・ツールの提供、イントラ等での社内発信、啓発期間の設定等)を実施。
  4. Development:人事制度、プログラム
    慶弔休暇や介護休暇、結婚祝い金、家族手当、赴任手当、社宅などの人事制度・プログラムがある場合、従業員の同性パートナーにも適用。トランスジェンダーの従業員を本人が望む性別で扱う、トイレや更衣室等のインフラ整備等。
  5. Engagement/Empowerment:社会貢献・渉外活動
    LGBTQへの理解を促す社会貢献活動や渉外活動(プライドイベントへの協賛等)
     1〜5についてさらに細かく評価項目が設定されていて(4については同性パートナーがいる従業員向け、トランスジェンダーの従業員向け、制度全般とさらに分かれています)、それぞれ2つ以上満たす必要があり、全てをクリアして初めてゴールドと認定されます(詳しくはこちらをご覧ください)

 実際には、社内制度の整備や社会貢献を熱心に行っている企業でも社内でカミングアウトする当事者がほとんどいなかったり(実は職場にまだ差別的言動が横行しているのかもしれません)、逆に、施策を十分に行う余裕がない小さな会社でも当事者が生き生きと働けているケースもあったり(おそらく社長さんがアライの方で、支援的なスタンスが職場に行き渡っていたのでしょう)、こうすればOK、ということは一概には言えなかったりします。「LGBTQも生き生きと働けるような職場環境を整えていくこと」という目標は同じですが、それぞれの職場に固有の状況があり、何が問題で、どのように施策を進めていくのが効果的かというのは、会社ごとにきめ細かく見ていく必要がありそうです。ぜひOUT JAPANにご相談ください。

(文:後藤純一)

PRIDE指標の受賞企業の表彰も行われるセミナーイベント「work with Pride」は毎年、カミングアウトデーに当たる10月11日に開催されています。PRIDE指標に応募していない企業でも参加できますし、日本全国の様々な企業がLGBTQ施策を頑張っている、その熱さも感じ取ることができますので、ぜひ参加してみてください。



※OUT JAPANでは、LGBTQの基礎知識や具体的事例を中心にLGBTQに関する企業施策を紹介する無料セミナーやSOGIハラに関するセミナーを随時実施しています。

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