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HIV陽性者が病院から内定を取り消され、提訴。本人尋問での病院側弁護士の質問があまりに差別的で、問題視されています

記事日付:2019/06/14

 昨年7月、HIV感染を告げなかったことを理由に病院の就職内定を取り消されたとして、北海道在住の30代男性(仮にAさんとします)が病院を運営する社会福祉法人北海道社会事業協会に対し、慰謝料など330万円の支払いを求めて札幌地裁に提訴していましたが、6月11日、Aさんに対する本人尋問が札幌地裁で開かれ、病院側の代理人弁護士が差別的な質問を次々に本人に浴びせ、問題になっています。
 
 
 Aさんは2017年12月、道内の病院の求人に応募し、ソーシャルワーカーとして採用が内定しました。昨年1月、彼が以前受診した際の個人カルテを勝手に見た病院側から「話が違う」と電話があり、その後「就労に問題はなく、職場で他者に感染する心配もない」とする主治医の診断書を病院側に送りましたが、内定を取り消されました。Aさんは、厚生労働省のガイドライン※1などに反しているとし、「納得がいかない。HIVに対しては社会的に根強い差別や偏見があり、現状に一石を投じたい」と訴えました。北海道社会事業協会は「健康問題に関する質問に対し、原告が虚偽の回答をしたことが内定取り消しの理由」として、争う考えを示しました。
 
※1 職場におけるエイズ問題に関するガイドライン:厚生労働省(当時は労働省)が1995年2月に策定、2010年に一部改正。「労働者に対し、HIVが日常の職場生活では感染しないことを周知徹底し、職場において同僚の労働者等の科学的に根拠のない恐怖や誤解、偏見による差別や混乱が生じることを防止するとともに、HIV感染者やエイズ患者が、仕事への適性に応じて働き続けることができるようにする必要がある」と、冒頭で述べられています。
 
 6月11日、札幌地裁で原告のAさんに対する本人尋問が行われました。
 原告の代理人が、証言台に座るAさんに経緯を聞きはじめました。
「私は社会福祉士になる前、薬学部にいました。その時の、病気のことなども影響していたのですが、同じ大学の違う学部の友達が人と接するような仕事を学んでいることにすごく心が揺さぶられて、実験とかそういうことよりも対人援助の仕事がしたいと思い、退学してそちらを専攻しました」
「私が(HIVに)感染する前でしたが、医療ソーシャルワークのなかに、HIVソーシャルワークという分野がありました。そこに興味がありました」
 Aさんは、25歳の時に検査を受けて感染がわかり、服薬を続けています。今は30代です。
 代理人が、感染がわかって以降、差別や不利益を被った経験があるか、と尋ねると、静かに、少し間を空けて「あります」と小さく答えました。地元に帰っていた時、この病院に患者として来院したことがあったそうです。体にしこりができ、気になったので診察に行ったのです。「対応できないと言われました」「問診票に(HIV陽性であることを)書いたところ、外来の看護師の方たちがざわつきはじめ、1人目の医師には『診られない』と断られ、2人目の医師には防御服のような恰好で触診されました」。この医師は、手術着のような格好で、マスクをつけ、ラテックス手袋をはめて出てきたそうです。そしてしこりを触診し、「(エイズ治療の)拠点病院にでも行ってください」と告げました。このしこりは特にHIVと関係ない、ただのしこりでした。
 Aさんが、そのような差別的な扱いを受けたにもかかわらず、その病院の採用試験を受けようとしたのは、「地元で病床数がある(働ける)のは、あの病院ぐらいだったからです。私は(実家に帰って)家族と一緒に過ごしたいと思ったのです」と事情を語りました。それ以外では差別的な扱いは特にありませんでしたが、それは「そもそもHIVに感染していたことを言わなかったから」でした。「伝えたところで相手が動揺するかもしれないし、相手のことをフォローできるのか、自問自答したからです。理解してもらえないかもしれないと」
 HIV陽性者が世間からの差別を怖れて周囲に言えない、その「言えなさ」というのは、ゲイであることを言えないということの何十倍も深刻です(カミングアウトしているHIV陽性者の方は、全国でも数えるくらいしかいません)。地方に暮らす方であればなおさらです。
 
 被告の病院側は「面接で持病の有無を尋ねた際、HIVの感染を伝えなかったために内定を取り消した」としています。
 たしかにAさんは、勝手にカルテを見た病院から電話でHIV感染について聞かれた際、とっさに「ない」と返事をしてしまいましたが、それは長年、周囲に言えず、バレないよう気をつけながら生きてきた人としての自己防衛反応でしょう。
 それより問題なのは、この訴訟の中で、被告の病院側が、しきりに「流血感染のおそれがある」※2と主張し(注射針などの使用もないソーシャルワーカーとしての勤務ですから、感染などありえません)、病院側の代理人は「感染していない人がね、感染者からウイルスをうつされたくないって思うのは差別なんですか?偏見なんですか?」「あなた以外の他の人は、自分自身を感染から守っちゃいけないんですか?」「精神疾患のある、頭の変な患者から殴られたりしてそういうことが起きたときに、あなたが病気を持っている情報がなければ何も対策できないですよね」などと、ひどく差別的な言葉を連発しました(法廷でのやりとりの詳細は、こちらの記事に詳しく書かれています)
 
※2 HIVが血液を介して感染する確率:HIVはとても弱いウイルスなので、空気や水に触れるとすぐに死んでしまいます。日常生活では決してうつりません。傷口のない皮膚にHIVを含む血液が触れたとしても感染することはありません。医療機関でHIVを含む血液を誤って注射してしまう「針刺し事故」が起こったとしても、感染する確率はたったの0.3%です(ちなみにHBV(B型肝炎ウィルス)の感染確率は30%、HCVは3%くらいです)。しかも、抗HIV薬を服用してウイルス量が検出値以下になっている方の場合、たとえ針刺し事故が起こったとしても、感染確率は0%です。検査を受けておらず、知らずにHIVを持っているような方よりも、よほど安全・安心なのです。
 
 法廷で傍聴していた方の一人は、「まるでかつてのハンセン病の差別を見ているようだった」と語っています。
 神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎さんは、「「恥を知れ」と言いたい」「21世紀の令和の時代になっても日本ではHIV、エイズというとまるで化け物でも見るようなパニックに陥る人が少なくない。医療、医学のプロである病院や病院長たちがこのような思考停止に陥るとは言語道断である。はっきり言おう。こういう人たちは医者である資格はない。医者でいるにはあまりに偏見が強く、狭量で、かつ無知無学で不勉強だ」「報道されるコメントには腹わたが煮え繰り返る思いである」と述べています。
 SNS上にも「怒りしかない」「医療機関でこのような無知や偏見がまかり通るなんて信じられない」「こんな病院には絶対に行きたくない」など、非難の声が多数、上がっています。
 なお、BuzzFeedの岩永記者が、病院側の代理人である小竹真喜弁護士にコメントを取ってくださっていますが(「私たちの主張は裁判所の証拠資料として全て提出しているので、それを見ていただきたいとしか言えません」とのこと)、とある方が、小竹氏の所属する法律事務所を調べたところ、医療過誤事案をたくさん手がけており(公式サイトに「医療機関側」とはっきり書かれています)、小竹氏が個人的な無理解や差別心であのような質問をしていたのではなく、医療機関側を勝たせるためならどんな手を使ってでも…という事務所の姿勢が透けて見えると、このような法律事務所を顧問にするのはリスクでしかない、と指摘しています。
 

 「いちばん病気のことを知っているはずの医療機関からそのようなこと(内定取消)を受け、がく然とした」というAさんが、訴えることを決めた、その思いについて、法廷でこう語っています。
「私の仕事は、人の人権を守る仕事です。自分の人権も守れないような人間に、ソーシャルワークなんかできない。そう思って裁判をしています。『こういうことはいけないんだ』ということを法廷で示すことによって、(HIV陽性である)同じような立場の方の支えになると考えています」
「私以外にも、泣き寝入りしている人は……たくさんいると思ったからです」
「私の人権は、被告の病院に……殺されました。私の、人権を返していただきたいです」

  
 判決は、9月17日に言い渡される予定です。
 もちろん札幌地裁は、差別であると認定してくださると思いますが、裁判の勝ち負けだけでなく、この裁判をきっかけにして、HIV/エイズに対する世間の無理解や恐怖、偏見、差別が少しでも解消されることを祈ります。

 なお、ゲイコミュニティでは、(北海道は残念ながらないのですが)全国でコミュニティセンターを運営し、ゲイバーにコンドームを配布したり、Living Togetherのイベントを開催したり、aktaやぷれいす東京の方たちを中心に「HIVマップ」というHIV/エイズについての正しい知識や最新情報、安心して検査が受けられる施設の情報などを提供するポータルサイトの運営に携わるなど、様々な活動で予防啓発やHIV陽性者支援につとめ、HIV/エイズに対する偏見や恐怖心を払拭しながら、受検を増やし、感染を低く抑えることに成功しています(少しずつ予算が削られてきているので、苦労しているそうですが…)
 
 
 
参考記事:
HIV内定取消訴訟で本人尋問(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20190611/0011016.html
HIV内定取り消し訴訟、法廷では被告側の代理人から差別的な表現の質問も。偏見の根強さが露呈(ハフィントンポスト)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5d01b50de4b0dc17ef03e171
病院がHIV差別はナンセンス 普通に働き、生活できる時代です(BuzzFeed)
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/gahivhanansensunikidekirudesu

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