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LGBT差別解消法案が、今国会で提出される見通しになりました

 11月19日、立憲民主党をはじめとする野党が共同で、行政機関や企業に対してLGBTへの差別的な取扱いを禁止する議員立法を今国会に提出する方針であることが明らかになりました。
 この「LGBT差別解消法案」は、性的指向や性自認を理由にした差別の解消について、国や地方自治体の責務を定めるとともに、企業には採用の機会均等や解雇・配置転換での差別禁止を定める、行政の指導や勧告に従わない企業は公表するという主旨です。また、国や地方自治体の職員がLGBT(性的マイノリティ)の個人情報を意図的に漏らした(アウティングした)場合には1年以下の懲役か50万円以下の罰金を科す、公私立学校の校長にもLGBTについて相談できる体制を整えるよう義務づける、法案は表現規制までは踏み込まない(個人やメディアの差別的表現は罰則の対象外とする)というものです。
 
 LGBT差別を解消するための法律は、すでにEU諸国、オーストラリア、アメリカ(州ごとに)などで制定されています。南アフリカ共和国などは憲法でLGBT差別禁止を明文化しています。そうした国際情勢にも鑑みながら、どのような内容が妥当なのか、考えていくためのヒントをお伝えしていきます。
 
 まず、国際情勢について概観します。
 EUで2000年に、EU理事会が「雇用と職場における平等」指令を制定し、職場における性的指向に基づく差別を禁止しています。これによって、性的指向を理由に求職者を不平等に扱うこと、職場で揶揄したり侮辱したりすること、昇進や研修を阻むことが禁止されました。続いて同年12月に制定されたEU基本権憲章で「性的指向を理由とした差別を受けない」権利が明記されました。
 アメリカでは、2007年にヘイトクライム(憎悪犯罪)を禁じる「マシュー・シェパード法」※が提出され、2009年に成立しました。雇用と職場における平等を定める法律が定められている州もあります(残念ながら、連邦法はまだ制定されていません)。また、オバマ政権下で、職業における差別の撤廃として、同性愛者のカミングアウトを禁止する軍法が廃止されています。(※マシュー・シェパードは、1998年、ワイオミング州で撲殺されたゲイの少年で、ヘイトクライム禁止運動のシンボルとなってきました)
 国連では2008年、「私たちは、性的指向や性自認に関わらず、人権がすべての人に平等に適用されることを求めた無差別の原則を再確認する」と謳う声明文が、総会に提出されました。続いて2011年には、国連人権理事会が性的指向や性自認に基づく暴力行為や差別に重大な懸念を示す決議を採択、国際連合人権高等弁務官事務所がLGBTに関する初の正式な国連報告書を作成し、LGBTに対するヘイトクライムや同性愛の犯罪扱いや差別、LGBT市民に対する権利侵害などが報告され、人権高等弁務官のナバネセム・ピレイは同性愛を違法とする制度の撤廃や性的同意年齢の均一化、性的指向に基づく差別に対する包括的な法整備、ヘイトクライムによる事件の再調査などをはじめとしたLGBT市民の権利保護対策を求めました(国連の見解についてはこちらをご覧ください)
 
 では、「性的指向や性自認に基づく差別に対する包括的な法整備」とは、具体的にどういうことを包括しているのでしょうか。
 例えばアムネスティ・インターナショナルが「日本におけるLGBTの人びとへの差別 ~人権保障の観点から~」という資料をまとめています。まずは、基本的人権としての生存権、性的マイノリティの人々が差別を受けずに安全・安心に暮らせるよう、差別や暴力を取り締まること、自殺防止対策に性的マイノリティが含まれていること、ヘイトクライムに厳罰を課すことなど。それから、就業について、雇用に際しても職場においても差別されないこと。GIDの方が安全に治療・手術にアクセスできる権利、HIVをはじめとする性感染症のこと、メンタルヘルスなど健康に関する権利。拘禁施設における性自認の尊重、自然災害など緊急時の対応における性的マイノリティへの配慮、など、様々な事柄が含まれます。 
 
 そもそも「LGBT差別禁止法」の制定を目指して立ち上げられたLGBT法連合会は、具体的にLGBTがどのような困難に直面しているのか、を洗い出した「LGBT困難リスト」を制作し(常にアップデートできる体制にあります)、そのうえで、LGBT差別禁止法があれば、こういうふうに困難が解消されるよね、ということを「法律に対する考え方」でわかりやすく示しています。また、東京レインボープライド2016のタブロイドに掲載された「LGBT法連合会が目指すLGBT禁止法とは」という記事も、とても考え方が整理されたものになっています。
 
 今回の「LGBT差別解消法案」は、アウティングの禁止なども盛り込まれており、これが実現したらいいよね、と多くの当事者の賛同を得られそうな、実効性のある内容になっていると言えそうです。立憲民主党にはオープンリー・レズビアンの尾辻かな子議員もいらっしゃいますし、もしかしたらLGBT法連合会からも意見を聞いているかもしれませんし、きちんと当事者を交えて法案を作成したのだろうと思われます。
 
 

参考記事:
LGBT、日本でも論争に 野党が差別解消法案提出へ(日経新聞)

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