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性別適合手術を受けていながら男性の更衣室の利用を強要されたMtFトランスジェンダーの方がコナミスポーツクラブを訴えていた裁判で、和解が成立しました 

 性別適合手術を受けて女性として生活していたものの、既婚で、20歳未満の子がいたことから戸籍上の性別を変えられずにいた京都市在住のMtFトランスジェンダーの方が、コナミスポーツクラブに「他の人の迷惑にならないように男性の格好をして男性の更衣室を使え」と一方的に言われ、苦情にも応じてもらえなかったことから裁判を起こしていましたが、この度、原告の方が京都地裁(伊藤由紀子裁判長)の和解勧告を受け入れ、和解が成立しました。
 
 Buzz Feed Japanの記事「「生きていて良いんだと思えた」性同一性障害のジム利用者、コナミと和解成立」によると、京都市在住で企業を経営しているMtFトランスジェンダーの甲野友紀さん(仮名)は、2009年からコナミスポーツクラブに通っていました。甲野さんは性同一性障害との診断を受けて2014年3月に性別適合手術を受けましたが、既婚で、20歳未満の子がいたことから(性同一性障害特例法の要件を満たさず)戸籍の性別を変えられない状態でした。甲野さんは手術を受けることを機に「この身体では、とても男性用更衣室は使えない」として、コナミ側に配慮を求めましたが、コナミ側の反応は冷ややかなものでした。店長に面談を申し込んでも、なかなか会ってもらえず、本社に苦情を入れて、やっと会ってもらえた2014年3月5日、店長はいったん「手術後なら、女性用ロッカーを使える」と認め、女性としての新しい会員証の話までしていたそうですが、後に「本社からの指示」としてこの話が撤回され、「他の人の迷惑にならないように戸籍の性別の男性の格好をして男性の更衣室を使え」と一方的に言われました。甲野さんは「なぜ、急に話をひっくり返すのか。なぜ、私に会ったこともない本社の人が一方的に決めるのか?」と驚きました。「私は女性です。胸もあるし、性別適合手術も受けたので、上半身も下半身も女性で、むしろ服を脱いだら全く混乱は起きません。会ってみてもらったらわかるはずなのに…」。その後、店長は「戸籍に従って、男性の格好をして、男性用のシャワーや更衣室を使って」と主張。甲野さんがそれは差別だと反論すると、店長からは「(裁判を)やるならどうぞ」と言われたとそうです。こうして、甲野さんは熟慮の末、2015年12月に京都地裁に訴えを起こすことにしました。
 コナミ側は「戸籍が男性なら、男性として扱う」という方針を、一貫して示しています。裁判で示された内部資料によると、コナミ側は2003年以降、性同一性障害の人の利用を「断らない」が、「戸籍主義に基づいて対処する」という方針を示していました。2008年に作成された社内資料では「性別が不明瞭な方の入会基準」として、「戸籍での性別を基準として施設をご利用いただくこととします」「お客様の態度や姿勢に左右されずに、一貫して統一した対応をとります」「他のお客様に不快感を与えないよう十分に配慮します」という方針を掲げています。
 甲野さんの代理人を勤める南和行弁護士は、このコナミの方針には問題があると語ります。
「人は、生活の中で関わる人を、男性・女性と振り分けていますが、それは戸籍を見て判断しているわけではなく、服装や髪型やお化粧といった容貌、声や仕草や話し言葉、体つきなど、見て聞いてわかる情報から、無意識に振り分けています。少なくとも目の前の人の、『戸籍』を探り当てて、それに基づいて目の前の人を男だ、女だと判断する人はいないと思います」
「そうするとスポーツクラブが、男女別になっている施設をどう利用させるかを判断する際、『戸籍の性別』だけを唯一の基準とするのは、多くの無理が生じます」
 甲野さんはこう語ります。
「裁判の中でコナミスポーツクラブは、これまでにも過剰なまでに戸籍にこだわり、性同一性障害とともに生きる多くの人を排除している記録を開示してきました。 その内容をこの場では細かく言えませんが、それを見て驚愕をともなう大きな怒りを覚えました」
「今の私が『男性更衣室』『男性浴室』で男性たちに肌を見せること、しかも裸を見られることは屈辱以外の何物でもありません。コナミスポーツクラブから、この屈辱的な利用制限を受けているのは私だけではなかったのです。これらのコナミスポーツクラブの対応は偏見だけでなく明らかな差別です」

 コナミ側は裁判で、最後まで「戸籍が男性の場合、男性として扱う」という姿勢を崩さず、謝罪の言葉もなかったそうです。それでも、甲野さんが和解に応じることにしたのは、裁判官の和解勧告に次のように書いてあったからだそうです。
「自らの性自認を他者から受容されることは、人の生存に関わる重要な利益である」
「契約上のサービスを受ける場においても、性自認にしたがった取り扱いを求めたことのみを理由として、冷遇されたり排除されたりすることがあってはならない」
 これを見て甲野さんは「私たちも普通に生きていていいんだと思うことができた」「それが和解した理由」と語りました。
「私は、あくまでも『私の尊厳』を回復させるために裁判を起こしましたが、悩みに悩んだ末に、和解勧告書の前文に込められた裁判官の優しさと差別に対する怒りを理解し、その考えに得心することができたので和解に応じました」

 TVや新聞の報道では、甲野さんが「利用者の心や体の状態に合わせて丁寧な対応をしてほしい」と語り、コナミ側は「LGBTの方々に真摯(に向き合えるよう従業員を指導していく」とコメントを出したそうです。和解条項は非公表ですが、原告側は「踏み込んだ内容で、勝訴的な意味合いは強い」としています。
 
 そもそも性同一性障害特例法では、戸籍上の性別を変更するために、20歳以上であること、未婚であること、未成年の子がいないこと、性別適合手術を受けて生殖機能を失っていること、外性器について見た目の性別に似た外観を備えていること、という厳しい要件が課されています。このため、甲野さんのように性別適合手術を受けても戸籍上の性別を変更できない方もいらっしゃいます。海外では医師の診断なしでIDの性別を自認する性別に変更できる法律の整備が進んでいますが(精神医学界でも、性同一性障害を精神疾患から外す方向で動いています)、日本は遅れていると言えます(子なし要件があるのは日本だけです)
 こうした事情に加え、コナミスポーツクラブが機械的に(無慈悲に)「戸籍主義」を振りかざし、性同一性障害の方への配慮を示さなかったことが、今回の裁判へとつながりました。
 
 南弁護士によると、コナミスポーツ側は「それでは、どういう基準にすべきか?」と原告側に尋ねてきたそうです。
 南弁護士はこう語っています。
「逆に、私たちは基準を求めすぎることには、懸念を感じました。なんらかの目安となる基準をもうけることは、たくさんの会員がいる限りやむを得ないと思います。しかし、どんな基準でも、こぼれてしまう人が必ずいる。その人から相談を受けたとき、高度な個別対応をすることはできないのでしょうか」
「『そんなんまで気を遣うのはめんどうだ』『その人も少しは我慢してほしい』という意見もわからないでもありません」
「でも、そう言うなら、しっかり受け止めてほしいことがあります」
「なぜ、性別に何の違和感もない人は『気を遣う必要がない』のに、性別に違和感のある人だけは『他の人に気を遣って、我慢しなければならない』のでしょうか。それはその人が性同一性障害やトランスジェンダーだからでしょうか」
「ということは、性同一性障害やトランスジェンダーの人は、やっぱり世の中で、『当然に我慢して生きていかねばならない存在だ』ということでしょうか」
「『少数派が我慢するのは、しょうがない』というのであれば、少数派ではない人は、自分自身もその人の心を傷つけている一人であるということを受け止めて、自覚した上で、生きていかないといけないと思います」
 


参考記事:
【京都】性同一性障害の原告 スポーツクラブと和解(ABC)
性同一性障害の会員 フィットネスクラブと和解(毎日放送)
性同一性障害の会員和解=スポーツクラブが配慮約束-京都地裁(時事通信)
性同一性障害訴訟 女性への手術、スポーツクラブと和解(毎日新聞)
性同一性障害の会員、スポーツクラブ利用で和解 京都、原告側は「勝訴的」と評価(産経新聞)
ほか

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