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国連人権高等弁務官事務所がLGBTI差別の解消に取り組む企業に向けた行動基準「Standards of Conduct for Business」を発表しました

 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、この9月に、LGBTI※差別の解消に取り組む企業に向けた行動基準「Standards of Conduct for Business」を発表しました。企業のLGBT施策の評価指標はこれまで、アメリカの人権団体Human Rights Campaign(HRC)が実施する「Corporate Equality Index(CEI)」や、日本の「PRIDE指標」など、各国のNGOが主体となって、その国の法的な事情などに鑑みながら策定されてきましたが、国連によって初めてグローバルな統一基準が示されたかたちです。
 
※国連のLGBT人権推進プロジェクトでは、性的マイノリティの総称として「LGBTI」を使用し、インターセックス(性分化疾患:先天的に染色体、生殖腺、もしくは解剖学的な性別が非定型である状態)も含めています
 
 この行動基準は、2011年に国連人権理事会が全会一致で承認した「ビジネスと人権に関する指導原則」をもとに、OHCHRが中心となって、世界各地の企業との協議を経て作成されたものです。
 21世紀に入り、国際的な潮流としてLGBTを取り巻く人権状況は改善に向かいつつあるものの、まだまだ国や地域によるばらつきが大きく、足並みが揃わないのが現状です(先日、国連人権理事会で「同性間の性行為に死刑を課すこと」を非難する決議が出されましたが、日本はこれに反対票を投じたというニュースも記憶に新しいところです)。LGBTの人権保障をさらに前に進め、ダイバーシティ&インクルージョン社会を実現していくための重要な役割を果たす主体として、企業の積極的なコミットが期待されています。
 OHCHRは世界中の企業に対して「Standards of Conduct for Business」に沿ってLGBT差別をなくしていく取組みを進めるよう呼びかけています。
 すでにアクセンチュア、コカ・コーラ、ドイツ銀行、EY、Gap、イケア、マイクロソフトなど15の企業がこの行動基準を採用し、支持を表明しています。

 ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は「Standards of Conduct for Business」を発表するスピーチの中で、「LGBTIの人々の平等な権利のために立ち上がることは、それが正しいというだけでなく、企業にとっての商業的な関心事でもあるというたくさんの証拠が揃ってきている」と語っています(国連広報センターの「排除の代償」をご参照ください)
「いかなるグループであれ、特定の人たちを排除することは、私たちの前進のスピードを落とすことにつながる。差別の撤廃は能力を引き出し、生産性を最大化するためのキーなのだ」
 
 「Standards of Conduct for Business」は5つの行動基準から成っています。(以下、OUT JAPAN訳)

どんなときも
1. 人権を尊重する
企業は、LGBTIの権利の尊重を確実なものにしていくために、企業ポリシーを発展させ、デュー・ディリジェンス(適切な配慮)を実施し、ネガティブな影響力を持たないような見直しを行うべきです。また、人権基準のコンプライアンスに関するモニタリングや伝達の仕組みを確立すべきです。
 
ワークプレイス(職場)において
2. 差別を取り除いていく
企業は、採用や雇用、職場環境、福利厚生、プライバシー保護、ハラスメントの扱いにおいて、いかなる差別もないよう保証していくべきです。

3. 支援を提供する
企業は、LGBTIの従業員が尊重され、スティグマが払拭された状態で働くことができるような、ポジティブで肯定的な環境を提供すべきです。

マーケットプレイス(市場)において
4. 他の人権侵害を防ぐ
企業は、LGBTIのサプライヤーや代理店、消費者を差別すべきでないのと同時に、ビジネスパートナーによる差別や差別につながるような職権の乱用を防ぐよう、その影響力を行使すべきです。

コミュニティ(地域)において
5. 公の領域で行動する
企業は、事業を行なっている国々における人権侵害を食い止めるような貢献を期待されています。その際、企業は、自身が果たすべき役割について地域のコミュニティに相談していくことが求められます。そこには、政府に対するアドボカシー(政策提言)活動、(その国の団体などとの)共同のアクション、社会的対話、LGBTI組織の支援、政府による人権侵害的な行動を変えていくことなどが含まれます。

 上記のうち、日本ではとりわけ「5. 公の領域で行動する」がハードルの高い項目と受け止められることでしょう。
 アメリカでは例えば、グーグルやマイクロソフトなど50社が同性愛者擁護を訴えて連邦裁判所に意見書を提出したりアーカンソー州でLGBT差別を正当化する法案が採択された際、ウォルマートのCEOが州知事に法案への署名を拒否するよう求めたりトランプ大統領がトランスジェンダーの従軍を禁止すると発表した際、IT企業のトップがこぞって非難の声を上げたり、ということが普通になっています。逆に、Firefoxの開発元であるMozillaのCEOに就任したブレンダン・アイク氏が、カリフォルニア州の同性婚禁止法に加担していたことが発覚してスピード辞任、というケースもありました(1.の「ネガティブな影響力を持たないような見直し」です)
 今回、企業もアドボカシー(権利擁護、政策提言)に携わるべきだということがグローバル・スタンダードとして示されたわけで、日本の企業にとっての今後の課題となっていくのかもしれません。
 
 なお、「国連が「企業向けLGBT行動基準」を発表、イケア、ドイツ銀行、ギャップら15社が支持」という記事で、LGBTコンサルタントの増原裕子氏が、国連が「Standards of Conduct for Business」を発表するに至った経緯をまとめてくださっていて、とても参考になります。
 最近のトピックとしては、SDGs=Sustainable Development Goals(2015年の「国連持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に基づいて掲げられた、持続可能な開発目標)という言葉をご存じな方も多いかもしれません。昨年のレインボー・リール東京で、レスリー・キーさんが監督し、早見優さんらが出演するSDGsテーマソングがお披露目され、話題になりました。しかし、SDGsには(ジェンダーの平等などは掲げられているものの)LGBTのことは明記されていませんでした。これをフォローするかたちで、潘基文国連事務総長(当時)が、SDGsのスローガンである「誰一人置き去りにしない」ということの中にLGBTIの人々も含まれると説明しています(ちなみに、潘基文氏は2012年、LGBTについて感動的なスピーチを行なっています

 

参考記事:
国連が「企業向けLGBT行動基準」を発表、イケア、ドイツ銀行、ギャップら15社が支持(Yahoo!ニュース/ビジネス+IT)

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