REVIEW

幾多の困難を乗り越えてドラァグクイーンを目指すゲイの男の子の実話に基づいた感動のミュージカル映画『Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~』

ドラァグクイーンとしてプロムに出場したいという夢を抱くゲイの高校生ジェイミーが、教師の反対や無理解な父親との確執など多くの困難を乗り越えながら、夢に向かってあきらめずに奮闘する姿に勇気と感動をもらえる、最高にハッピーなポップ・ミュージカル映画。これは名作。泣けます。

 ドラァグクイーンに憧れる男の子の実話に基づくポップなミュージカル映画『ジェイミー!』が2021年公開!との情報が昨年の10月11日(カミングアウトデー)、世界一斉に公開されました。
 英国の男子高校生ジェイミー・ニューは、母親から真っ赤なヒールの靴をプレゼントされたことから、プロムにドラァグクイーンとして出席する夢を抱き、クラスメートや教師からの心ない言葉、理解のない父親との確執など、多くの困難に見舞われながら、それでも自分らしくあろうとする……という実話が、BBCで「Jamie:Drag Queen at 16」というドキュメンタリーとして放映されました。これをミュージカルにしようという企画が持ち上がり、2017年11月に『Everybody’s Talking About Jamie』としてシェフィールドで初演され、絶賛の声を受けてウエストエンド(ブロードウェイと並ぶミュージカルの聖地)での上演がスタート、初演から3年以上が経っても上演が続く大ヒット作となり、2018年にはイギリス最高峰の演劇賞「ローレンス・オリヴィエ賞」の5部門にノミネートされ、ワッツ・オン・ステージ・アワードでは3部門に輝きました。そして、ミュージカル映画『ジェイミー!』として日本でも2021年に公開されることがアナウンスされたのです。
 コロナ禍によって上映が何度も延期されるという憂き目に遭い、最終的に、映画館での上映ではなく、Amazon Prime Videoでの配信というかたちにはなってしまったのですが、結果、どなたでも自宅で安心して楽しめるようになりました。
 実は映画の配信の直前に、英国のオリジナルの舞台版に日本語字幕がつけられた動画を先に観ていて、ストーリーも音楽も何もかもわかっていたはずなのに、それでも、何度も何度も泣かされました。紛れもなく新たなドラァグクイーン映画の名作の誕生です。レビューをお送りします。(後藤純一)
 
<ストーリー>
英国・シェフィールドに暮らす16歳の高校生ジェイミー・ニューは、将来ドラァグクイーンになることを夢見ているゲイの男の子。母親やその親友・レイ、親友のプリティ、ドラァグ用品店の店主などが応援してくれて、真っ赤なヒールやドレスもプレゼントしてもらい、プロムにドラァグクイーンとして出席しようとしますが、理解のない父親や教師、クラスの男子などから投げつけられた心ない言葉に傷つき、何度となく挫折しそうになります。果たしてジェイミーはドラァグクイーンになれるのか……






 舞台版も、これがミュージカルだ!という熱さがあり、音楽、歌、ダンス、どれをとっても魅力的で、特に音楽が素晴らしかった(Dan Gillespie Sellsというゲイのシンガー・ソングライターが手がけています)のですが、映画の方は、舞台では不可能な、あっという間にメイクが完成するという「魔法」が使えるのもアドバンテージですし、まるでアーティストのMVのような、モノクロ映像のクールな演出も光っていましたし、ジェイミーの子ども時代のシーンも観ることができて、映画だからこそのいいところがたくさんあったのですが、何よりも素晴らしかったのは、監督さんがオリジナルの舞台の良さを踏まえたうえで、さらに厚みを加え、より良くしてくれたことです。
 舞台版にはなかったシーンがいろいろ付け加えられていましたが、そこにLGBTQコミュニティやドラァグクイーン・カルチャーへのリスペクトが込められていて、胸を打たれました。私が(というか、たぶん世界的にもたくさんの人が)最も偉大なドラァグクイーンと仰ぐリー・バウリーの姿が見えた瞬間、思わず息を呑みました。感動しました。
 
 ジェイミーとお母さんの親子関係、お父さんや学校の先生との確執、親友プリティとの友情、そして宿敵ディーンとのやりとり…そうした人間関係のなかでジェイミーが成長していく様が鮮やかに伝わってきました。ジェイミーだけじゃなくお母さんの苦しみや葛藤や心の成長も描かれていたりするのもリアルですし、そういう母子が固い絆で結びついている姿も泣かせます。もちろん、偉大なメンターであるロコ・シャネル(ちなみにロコはスペイン語で「頭がおかしい」という意味です)やお姉さんクイーンたちも素敵でした。
 勇気を持って自分らしさを貫くことはそれだけで革命的なことなんだということを教えてくれる映画でした。人生でいちばん大切なのは愛と友情だということも。
  
 現代のカミング・オブ・エイジ・ムービーとして、LGBTQ教育の教材として、子どもから大人まで観て楽しめ、感動的できる作品です。全国の学校で上映したらいいのでは?と思ったりします(『ザ・プロム』のようにPTAから苦情が来るでしょうか?)
 
 
Everybody’s Talking About Jamie ~ジェイミー~ 
2021年/英国・米国/115分/監督:ジョナサン・バターレル/出演:マックス・ハーウッド, サラ・ランカシャー, ローレン・パテルほか
Amazon Prime Videoで配信中

 

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