REVIEW
職場でカミングアウトできない女性社員の思いを丁寧に掬い取った短編映画『日々、日和』
女性カップルを描いた『Veils』『カゾクノキョリ』のなかやまえりかさんが監督・脚本を務めた短編映画『日々、日和』のレビューをお届けします。職場でカミングアウトできない従業員の思いが丁寧に掬い取られ、LGBTQの働きづらさがリアルに描かれた作品です
2021年、婚姻平等(同性婚)をテーマにした日本初の映画祭「レインボーマリッジ・フィルムフェスティバル」が開催されましたが、そのコンペに出品され、多くの観客の共感を呼んだのが『Veils』という短編映画です。日々の生活のなかで性的マイノリティとしての息苦しさを感じつつも、交際5年の節目に結婚写真を撮るのを楽しみにしていた女性カップルが、“LGBTQ対応可”と謳っていたフォトサロンの対応が雑で、落胆と怒りを覚え…というストーリーでした。2023年には二人のラブリーな日常を描いたスピンオフ作品『カゾクノキョリ』も発表されました。この『Veils』『カゾクノキョリ』を手がけたなかやまえりかさんが監督・脚本を務め、OUT JAPANのプロデュースによって製作されたのが(2作ののスピンオフ作品でもあるのが)短編映画『日々、日和』です。1月14日に完成披露試写会が行なわれました。
これまで200本以上のLGBTQ(クィア)映画のレビューを書いてきた後藤純一が、当事者ライターとしてのレビューをお届けします。
<あらすじ>
勤務先のコールセンター部門で働く浅野日和は、同僚たちにレズビアンであることを明かさず、穏やかな日々を過ごしていた。しかし、上司の何気ない一言をきっかけに、平穏な日常が崩れてしまう。それぞれが当たり前だと信じてきた価値観や言葉たちが、揺れ始める――。


職場でカミングアウトできない従業員の思いが丁寧に掬い取られ、クィア(LGBTQ、性的マイノリティ)の働きづらさがリアルに描かれた作品でした。
観る方によって、いろんな感想があると思います(いろんな見方ができるのはいい映画です)
上司や同僚の人たちは「よかれ」と思って行動している。けれども、それは客観的に見ればアウティングだったりするし、「そっとしておいてほしい」と思うような当事者にとっては脅威だったりもします。そこをみなさんはどう感じ、どう考えるでしょうか。
社内ではLGBT-Ally研修が開かれる予定になっているけれども、みんながこの研修を受けた後だったら、もっと違った展開になっていたかもしれないな、と思う方も多いことでしょう。職場で研修の告知を見ただけでも「アライって何だろう?」と関心を持つ方もいたりしたので、やる意味があるなぁと感じた方もいらっしゃるはず。
以前あった作品のように「答えのない問い」を突きつけられてモヤモヤがつのってしまうほどではなく、何が問題だったのか、どうしていけばいいのかが比較的見えやすく、観たあとで感想や意見を言い合いやすい、「ちょうどいい議論しやすさ」になっていると思います。
2015年以降、社内LGBTQ研修を行なう企業が増えて(法律でも後押しされるようになって)職場はずいぶん変わってきたけれども(日和のパートナーも「風土が変わった」と言っていましたが)まだまだ当事者はカミングアウトしづらいという実感を抱いている現状があります。そこで変わるべきは社内のマジョリティの人たちであって、カミングアウトの重荷を当事者に背負わせるのは酷な話だ、そもそもなぜカミングアウトできないのかということに想像力を働かせてほしい(エンパシーをフル稼働して)、そんなメッセージが伝わってくるように感じました。
映画的にこの作品がとても優れていると感じるのは、主人公やそのパートナーの方が魅力的で、思わず応援したくなるようなキャラクターだということや、エンドロールで流れる主題歌が日和の心情に寄り添うかのような歌詞で、ラストシーンのせつなさを否が応でも盛り上げてくれるところです。決してロコツに教育ビデオみたいになっているわけではなく、良質な短編ドラマ作品に仕上がっています。(あまりそういう意識はないかもしれませんが)私は今後各地のLGBTQの映画祭などにも出品したらいいと思いますし、ビジネスパーソンに限らず、いろんな方に観ていただきたいと思います。
とはいえ、当面この作品は、企業研修の一環として、社内での上映会などを想定しているそうです。この映画の上映会をご希望の方は、株式会社アウト・ジャパンまでご連絡をお願いします。
なお、2月18日に監督のなかやまえりかさんらをトークゲストにお招きした『日々、日和』のオンライン上映会(セミナー)が開催されます。LGBTQに関する社内施策等にご興味のある企業の経営トップ、人事、ダイバーシティ担当の方など、ぜひご参加ください。
日々、日和(ひび、ひより)
監督・脚本:なかやまえりか
主演:松原怜香
出演:齊藤あきら、釜口恵太、中島舞香、加藤紗希、相馬有紀実、深谷康平、橘星音、柿内慧太
主題歌:ふじたゆかり
プロデューサー:ムラタマリエ
- INDEX
- 職場でカミングアウトできない女性社員の思いを丁寧に掬い取った短編映画『日々、日和』
- 遺された同性パートナーが見舞われた悲劇を描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
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- 映画『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』
- カミングアウトのリアルを印象深く描いた名作短編映画『誰も悪くないのにね』
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
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