REVIEW

I Am Here ー私たちはともに生きているー

今を生きる日本のトランスジェンダーのリアリティを映し出した当事者監督によるドキュメンタリー映画です。様々な生きづらさが浮き彫りになり、身につまされますが、笑いや感動もあり、観てよかったと思えます。東京ドキュメンタリー映画祭2020・短編部門グランプリ受賞作です。

 今を生きる日本のトランスジェンダーのリアリティを映し出した、今世紀初のトランスジェンダー当事者ドキュメンタリー映画です。現行法の問題点、就職や職場での難しさ、日常生活で直面する困難、厳しい現実を浮き彫りにしつつも、とても生き生きとしたトランスジェンダーの方たちの姿に魅了され、その豊かさや、コミュニティ感、笑い、感動もあり、観てよかったと思える作品です。


 日本のトランスジェンダー(に限らず、LGBTQ)のリアルな姿を当事者自身が映画化するということがこれまでほとんどなく、(90年代に1本あったそうなのですが)今世紀に入ってから作られたトランスジェンダー当事者ドキュメンタリー映画は、この『I Am Here ー私たちはともに生きているー』が初めてだそうです。
 
 世間に多大なインパクトを与えた『金八先生』の鶴本直(上戸彩さんが演じたトランス男子)のモデルとなった「レジェンド」虎井まさ衛さん、研究者でありプライドハウス東京の活動にも携わっていた三橋順子さん、日本性同一性障害・性別違和と共に⽣きる⼈々の会(gid.jp)代表の山本蘭さん、日本で初めてトランスジェンダーのホームページを開設したアクティヴィストの畑野とまとさん、東京レインボープライド共同代表の杉山文野さん、大阪の「ジャック&ベティ」のママ、大阪のコミュニティセンター「dista」でHIV予防啓発に携わっている宮田りりぃさん、そして(延期になっていますが)トランスマーチの開催も企画していた当事者グループ「TRanS(トランス)」や、精神疾患や依存症などの問題を抱えるLGBTQを支援する「カラフル@ハート」の代表であり、この映画の監督を務めた浅沼智也さんなど、多彩なトランスジェンダーの方たちが総勢20名以上、出演しています。未来を担う若い方たちも登場しますし、車椅子ユーザーの方などもいらっしゃいます。
 
 マスメディアではなかなか伝えられることのない、リアルなトランスジェンダーの声を掬い上げながら、現行法の問題点や「戸籍性さえ変えれば解決ではない」ということ、パス度(表現しているジェンダーが第三者からもその通りに認知されているかどうかということ)の問題など、それぞれの生きづらさに迫る一方、トランスジェンダーの豊かさや、コミュニティ感、笑い、よかったこと、親へのカミングアウトなども描かれ、感動もあり、観てよかったと思える作品です。

 杉山文野さんが「子を持つまでは長生きすることなんて考えなかった」と言っていて、「すごくわかる」と思いました。子どもができて初めて未来を考えることができた、長生きしなきゃと思えたという言葉が印象的でした。

 「就職の難しさや職場での問題というのはトランスジェンダーの山ほどある社会的課題の一部、せめてそこくらいはOKにしてほしい」という語りがあり、本当にその通りだと思いました。普通に就職できなかった時代、受け皿として「ジャック&ベティ」のようなショーパブのママさんたちがトランスジェンダーの方たちを養い、手術代を稼がせていたという話、それでも北新地ではトランスジェンダーであるという理由で出店を断られた、といった話などは、本当に身につまされるものがありました(みなさん、明るく語っていらっしゃいますが、それだけに)

 東京ドキュメンタリー映画祭2020・短編部門でグランプリを受賞しています。
 上映の機会があれば(ご要望があればOUT JAPANでもお手伝いします)、ぜひご覧いただきたいです。


I Am Here ー私たちはともに生きているー
2020年/日本/監督:浅沼智也

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