REVIEW

米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』

トランスジェンダーをめぐるアメリカのシビアな現状だけでなく、コミュニティの温かさや「喜び」も描かれた感動的な短編映画です。12日まで無料で配信されています

 これまでたびたびトランスジェンダーのリアルを伝える映画をオンライン上映してきたトランスジェンダー映画祭が、今年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー部門のショートリスト(オスカー候補)にも入った短編ドキュメンタリー映画『議席番号31(原題:Seat31 Zooey Zephyr)』を、国内初となる日本語字幕付きでオンライン上映しています。
 アメリカの中でも最も保守的な州の一つであるモンタナ州の議会で、露骨ないやがらせに遭いながらも誇り高く闘っているゾーイ・ゼファーというトランス女性の議員の姿を追ったドキュメンタリーで、15分という短い時間のなかで、いまアメリカでどんなことが起こっているのかというシビアな現状だけでなく、トランスジェンダー+アライコミュニティの温かさや「喜び」も描かれていて、感動的です。

<作品について>
ゾーイ・ゼファーは、モンタナ州の下院議員。30代。共和党の支持者が多い「真っ赤な州」であるモンタナで、初めてトランスジェンダーであることを公表して2022年に当選した。共和党はトランスジェンダーの権利に否定的な政策を打ち出しており、モンタナ州でも、トランスジェンダーの権利を制限する法案がたびたび議論されている。ゾーイの政治家人生も順風満帆とは言いにくい。それどころか、トランスジェンダーの若者をめぐる議会での発言がきっかけで、議場にすら入れない発言禁止処分を受けてしまう。それでも、今度は廊下のベンチを自分の席にして、なんとか政治活動を続けようとする。いつも前を向こうとする彼女の姿は、同じように社会の偏見に苦しむ人々にとっての希望の象徴にもなりつつある。

 
  自らもトランス女性として誇り高く議場に立ち、コミュニティの代弁者として闘ってきたゾーイ・ゼファー議員。モンタナ州というトランスジェンダーを敵視する人たちばかりの議会で、差別主義的な議員の発言にキレて、少しばかり激しい言葉を返したために、議場への立入りを禁止され(そんなことってあるんでしょうか…モンタナ怖い…)、議事堂の中にあるスナックバーの横のベンチで仕事をするのですが(投票はオンラインで可能)、アンチの女性たちがいやがらせでそのベンチすら占拠し、彼女は一日中立って仕事をする羽目に…。アメリカの保守的な州でいま何が起こっているのか、トランス女性を悪魔か何かのように見なす“普通の”人々の邪悪さが、短い時間の中で端的に描かれていました。しかし、一方で、そうした厳しい現実とは対照的に、コミュニティのみんながゾーイをどんなに讃え、愛してきたかということや、ゾーイ自身も素晴らしいパートナーを持ち、愛しあってきたといった「JOY(喜び)」も描かれていて、そこが素晴らしかったし、感動しました。

 トランスジェンダー映画祭が上映した『最も危険な年』というドキュメンタリーでは、いまのこのトランスジェンダーに対する攻撃の波がどのように始まったのかということが鮮やかに示されていましたが、福音派などのキリスト教右派の人たちが多数を占めるわけでもない日本にさえもその影響が及び、2018年のお茶大トランス女子学生受入れ発表以降、SNSでヘイトやバッシングが吹き荒れ、トランス女性の弁護士に殺害予告が届くほどの恐ろしい状況になっています。LGBTQユースの居場所づくりを行なってきた団体にもTwitter上で「子どもをグルーミングしている」「洗脳している」などといったバッシングが起こり、投稿者に賠償命令が下されました。昨年11月には芥川賞作家の李琴峰さんが度重なる誹謗中傷やアウティングからカミングアウトを余儀なくされ、加害者を相手取って複数の裁判を闘っています(今年「李琴峰さんを支える会」が立ち上がりました。よろしければご支援をお願いします)

 今回の『議席番号31』を観て思ったのは、アメリカは、人々のLGBTQ(クィア、性的マイノリティ)に対する態度がものすごくはっきりしてて、アンチの人たちは殺しかねない勢いで攻撃してくるけど(実際に毎年何十人も殺されています)、味方や、支援者や、愛を表明してくれる人たちもめっちゃ多くて、孤立したり、絶望したりするのを防いでくれるということです。
 日本はどうかというと、たぶんですが、結構簡単に孤立したり、絶望したりするトランスジェンダーの方、多いんじゃないかと思うんです。コミュニティのために先頭で闘っている方たちとかもゾーイ・ゼファーやパートナーのエリン・リード(彼女もトランス女性です)のように万雷の拍手や歓声や「愛してる」というかけ声で迎えられたり、レインボーの花束を贈られたりすることも、たぶんほとんどないんじゃないでしょうか。それは政治に対する態度の違いということでもあるかもしれませんが。
 
 無料ですし、今からでも申し込めますので、よろしければぜひ。

 11日(日)には、ゾーイ・ゼファーとエリン・リードが登壇するオンライン勉強会も開催されます(エリン・リードはアメリカにおけるトランスジェンダーの政治について最も精力的に発信をしているジャーナリストの一人で、2024年にはGLAADメディアアワードの優秀ブログ賞を受賞しているそうです)。そちらも無料で参加できますので、映画を観て興味が湧いた方はぜひ。




議席番号31
原題:Seat31 Zooey Zephyr 
2024年/米国/15分/音声:英語、字幕:英語または日本語/監督:Kimberly Reed
オンライン配信 5月9日(金)14:00〜12日(月)16:00
無料(よければカンパチケットにご協力をお願いします)
主催:トランスジェンダー 映画祭実行委員会
協力:Team Respect& Solidarity(TRanS)
※本上映はvimeoを使ったオンライン上映です。インターネットに接続できる機材・環境をご自身でご準備ください。受信者の不備によって視聴できない場合の責任は負いかねます。
※vimeoを使った視聴になりますので日本国内からの視聴に限らせていただきます。
※URLは購入後にpeatixの連絡システムでお知らせします。
※鑑賞は申し込みされた方のみ視聴をしてください。人数を超えるとログインできなくなります。第三者への拡散は絶対にしないでください。
※録音・録画は一切禁止です。
※チケットのキャンセル・払い戻しには応じかねます。
※本上映会への寄付の一部は冊子「トランスジェンダーのリアル」のカンパになります。

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