REVIEW
『FEEL YOUNG』でクィアの学生を主人公とした『道端葉のいる世界』が連載開始
『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
「おしゃれな恋愛コミック誌」をキャッチコピーに、恋愛だけでなく仕事や人生など、現代の女性が抱えるリアルな悩みに寄り添うコミック誌として名高い『FEEL YOUNG(フィール・ヤング)』の最新刊・2025年11月号は、あの安野モヨコ先生の『後ハッピーマニア』の最終話が掲載されるということで、多くのファンのみなさんがこぞって買い求めているであろう号なのですが、その『FEEL YOUNG』最新刊で、なんと、クィアの学生を主人公とした漫画の新連載が始まりました。
村野真朱さん原作、文川和海さん作画、三木那由他さん(トランスジェンダーの哲学者の方)監修の『道端葉のいる世界』は、ノンバイナリーの哲学科学生である道端葉のキャンパスライフを描く作品です。ちょっと難しそうな哲学科とはいえ、学生たちがノートを貸し借りしたりイケてる男子にときめいたりという、よくある、イマドキのキャンパスライフの光景のなかで、主人公の道端葉が、仲の良い、信頼できると思っていた人にノンバイナリーであることをカミングアウトしたおかげでアウティングされ、素敵だなと思っていた男子にもそれが伝わって急に態度がよそよそしくなり…というのが第1話のストーリーです。
言われなければトランスジェンダー(ノンバイナリー)だと気づかれないような見た目の道端葉が、そうだとわかってしまった時にどんなリアクションをされるかというリアリティだけでなく、ただバレないように「ふつう」に目立たないように過ごそうとするのではなく、恋もするし、友達もいるし、みんなと同じようにキャンパスライフを送ろうとしている前向きさや明るさ、素敵さが感じられ、きっとその姿に魅了される読者は多いだろうなと思わせます。
ちなみに第3話では、教室で葉たちがプログレス・プライド・フラッグについて話しているのを聞いていた女子生徒が、スマホで「プログレス・プライド・フラッグ」を検索して見ているシーンが描かれています(そこで使われたのがPRIDE JAPANの用語解説です。ちゃんと引用元のURLも載せてくださっています)
原作の村野真朱さんはジェンダー/セクシャルマイノリティを主題とした漫画、小説、短歌や俳句などの創作物を掲載する雑誌『ミノリト』に、友人たちと毎日を生き抜くトランス/ノンバイナリースペクトラムの高校生が主人公の小説を寄稿するなど、以前から真摯な姿勢でクィア作品を書いている方です。今回の『道端葉のいる世界』の連載にあたり、『FEEL YOUNG』編集部の方もアライとしてLGBTQに寄り添い(そうじゃなければこのような作品は載せないと思いますので)、支援するスタンスが窺えます。
振り返ってみれば、『FEEL YOUNG』は1989年の創刊から現在まで一貫してフェミニズムを編集方針に掲げている漫画誌ですが、性的マイノリティ(クィア)を描いた作品も多数、掲載してきています。ゲイと女性が同居することで起こる恋愛模様を描いた桜沢エリカさんの『愛しあう事しかできない』(1995年)、レズビアンを主人公としたやまじえびねさんの『LOVE MY LIFE』(2000年)や『インディゴ・ブルー』(2002年)などは、当時のレズビアンコミュニティやゲイコミュニティで熱い支持を得ました(やまじさんえびねさんは、ゲイ男性に恋をした美術史専攻の大学院生の女性を主人公とした『愛の時間』(2008年)も描いています)。その後も、クィアな男子に惹かれる女性の恋を描いた長田亜弓さんの『やわ男とカタ子』(2017年)、ためこうさんの『ジェンダーレス男子に愛されています。』(2018年)、戦後の女学生時代に出会い、心中未遂を図るほど思い合っていたのに「共に生きる」という人生を選び取ることができなかった二人を描いた須藤佑実さんの『夢の端々』(2020年)などさまざまな作品が掲載されています。『FEEL YOUNG』はクィア漫画史を語るうえで欠かすことができない存在なのです。
ノンバイナリーという(COCONAさんのこともありますし)いま最も理解や支援を必要とされているジェンダーのありようを、あるいはZ世代の多様な性をごく自然に当たり前のことと受け止める学生たちの姿を生き生きと素敵に描く『道端葉のいる世界』が、そんな『FEEL YOUNG』誌上の輝かしいクィア作品の系譜の上にあることは間違いありません。
『道端葉のいる世界』
原作:村野真朱、作画:文川和海、監修:三木那由他
『FEEL YOUNG』2025年11月号から連載スタート



