REVIEW
当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
トランスジェンダーやノンバイナリー、アロマンティック/アセクシュアル、クエスチョニングなど10人くらいの当事者やアライにお話を聞いてまとめたインタビュー集であるとともに、アライとしての「思い」を丁寧な言葉でわかりやすく伝えてくれる本でもあります。世の中を変えていこうとする「本気」の、真摯な姿勢が伝わってきます。
高校時代に留学先のサンフランシスコで知り合ったホストシスターがレズビアンで、彼女が同性パートナーと結婚し、子育てをする姿に心を動かされ、もっとLGBTQのことを知りたいと、いろんな人の話を聞き、2021年に『ALLYになりたい: わたしが出会ったLGBTQ+の人たち』という本を上梓した小島あゆみさん。その後も一般社団法人調布LGBT&アライの会の理事をつとめたり、アライの輪を広げる活動をしてきました。先日のレインボーフェスタ!でも「アライエス」のブースに参加したり、雨の中、パレードも歩いたりしていました。世の中を変えていこうとする「本気」の気概を感じさせるアライの方です(上の写真は関西レインボーパレードで「アライエス」の仲間たちと歩く小島さんです)
そして小島さんは、ネット上でのトランスジェンダーへのバッシングに胸を痛めたことがきっかけで、『トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声』という本を書きはじめ、つい先日、その本が完成し、リリースされました。トランスジェンダーやノンバイナリー、アロマンティック/アセクシュアル、クエスチョニングなど10人くらいの当事者やアライにお話を聞いてまとめたインタビュー集ですが、「結婚の自由をすべての人に」訴訟などの裁判の傍聴に行ったり(傍聴応援チームとして活動)、署名活動やパレード参加などの話も盛り込まれています。たいへんよくまとまった基礎知識の情報もついています。
これまで何十冊ものLGBTQ関連の本が出てきましたが、小島さんの本ほど読みやすく、誰もが読んでわかる、心を動かされる本ってなかなかないと思います。
とてもやさしい――やさしいというのは「優しい」であり「易しい」でもあります――とても良い本です。
今つらくてしんどい当事者の方が読んでも、癒されたり、励まされたり、希望が持てると思いますし、アライ(になろうとする方)が読んでも、励まされるし、学びがあります。
もしかしたら、自分は当事者だし、自分はすでにアライだし、このような、世間の人たちに向けてアライになろうと呼びかける趣旨の、わかりやすさを重視した、特に目新しさはあまりないような本を読む必要性はそんなにないのではないかという第一印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、決してそうではないです。
インタビュー集の最初、トランス男性の加藤圭さんのストーリーは、本当に多くの人に読んでほしいです。教員をしていた圭さんは、性別変更して働きたいと校長に相談したところ「やめたほうがいい」と言われ、学校を辞めてしまったり、親が性別変更のことを受け容れてくれなかったり、愛するパートナーとの結婚も猛反対されたり…という、とてもしんどい、一筋縄ではいかない半生を送ってきました。しかし、2番目の兄である加藤岳さんが、性自認を理由に学校を辞めなくてはいけないなんて、そんな社会はおかしい、と言って、立ち上がり、レインボーさいたまの会を立ち上げたのです…埼玉県内の自治体に同性パートナーシップ証明制度の導入を要望したり、埼玉レインボープライドを開催した、あのレインボーさいたまの会です(読んでて泣きそうになりました。息子がゲイであることを知ってPFLAGに参加し、パレードも歩くようになったLAの夫婦の話を思い出しました)。ドラマや映画になってもおかしくないし、ぜひそうなってほしいお話だと思いました。
どの方のお話にも心を動かされるものがあります。読まなくてもよかったと思うようなお話は一つもありません。
事実は小説より奇なりと言いますが、世の中には、私たちが知らないたくさんの真実の物語がありますし、制度を求める活動にも、パレードにも、日々の支援活動などにも、それぞれにたくさんのドラマがあります。そうしたストーリーを拾い上げ、このように本という形にして感動を届けてくれるのは、本当に意味があることだと思います。
例えば、身近な人に、特にトランスジェンダーに対する誤った情報を鵜呑みにしているような人に、どうしたらわかってもらえるのか、自分が口で説明するのは大変だ、と思うときに、この本を読んで、と手渡すといいんじゃないでしょうか。こういう、丁寧な解説とともに当事者のリアリティを伝えるような本こそが、「解毒剤」の役割を果たし、人々の誤解を解くことにつながる気がします。
思いやりでは(法整備などの)課題は解決しないとも言われますが、こういうアライの方の活動って思いやりの心あればこそですし、その心根の優しさに胸が打たれることは多々あります。人の言葉、言葉ににじむ「思い」や真摯な姿勢には、人の心を動かす力があると思います。「思い」が真正なものであれば、それはきっと伝わり、広がっていくのです。私たち当事者もそういうことを経験しているし(古橋悌二さんの「思い」が死後も伝播していったように)、SNS上の心ない言葉に暗澹たる気持ちを覚える時代ではありますが、いま一度、真摯に「思い」を伝えることの大切さを信じ、それに賭けてみようよ、とも思うのです。この本はそういうことも思い出させてくれました。
なお、11月4日に紀伊國屋書店新宿本店で、上川あやさんをお招きする刊行記念トークイベントが開催されるそうです。世田谷区議として日々、忙しく活動している上川さんが登壇するのはスゴいこと。ぜひお出かけください。
「上川あやさんと誰もが生きやすい社会について語る」 上川あや×小島あゆみ『トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声』(かもがわ出版)刊行記念トークイベント
日時:2025年11月4日(火)19:00-20:30(18:40開場)
会場:紀伊國屋書店新宿本店 9階イベントスペース
チケットはこちら
- INDEX
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- あの痛ましい事件を風化させないように――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- 輝けないクィアを主人公にしたホロ苦青春漫画の名作『佐々田は友達』
- 安易な「わかりやすさ」や「共感」を目指さない新世代のトランス・コミック『となりのとらんす少女ちゃん』
- トランスジェンダーやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
- 『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら』
- 『トランスジェンダーと性別変更』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- いま最も読まれるべき本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- マイノリティを守るためには制度も大切だということを説く本:『差別は思いやりでは解決しない ジェンダーやLGBTQから考える』



