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トイレからトランスジェンダーを締め出す差別法が非難やボイコットの対象に

生まれつきの身体上の性別と性自認(自分自身の性別をどう認識するか)が一致しないトランスジェンダーの人たち。日本では性同一性障害という言葉が浸透していますが、トランスジェンダーとイコールではありません。性同一性障害は医療上の診断名であり、すべてのトランスジェンダーが性同一性障害者として身体上・戸籍上の性別の変更を望んでいるわけではありませんし、性同一性障害特例法には「未成年の子がいないこと」などの厳しい要件が課されていることや、(映画『リリーのすべて』をご覧になった方はご理解いただけると思いますが)命の危険もある性別適合手術を受けることを躊躇する方もいます。  

見た目がほぼ男性であっても戸籍上は女性という方や、その逆の方、また、性別移行途中で男性にも女性にも見えるような方など、トランスジェンダーにも様々な方がいますが、そういう方たちにとって、公共の場所でどちらのトイレに入るかというのは、深刻な問題になっています。「だれでもトイレ」がない職場に勤めているトランスジェンダーの方が、トイレに行けず、排泄障害を患うケースもあるそうです。    

2016年3月23日、米ノースカロライナ州議会は、男女別が明記されている公共施設について、出生証明書に記載された性別に応じて公衆トイレを使うよう義務付ける法案(公共施設のプライバシーと安全法)を通過させました。この法律は事実上、トランスジェンダーの人をトイレから締め出すものです。
 現在、全米の州議会や市議会で、このような「トイレ論争」が勃発しており、他に少なくとも13州が似たような法律の制定を検討しているそうです(サウスダコタ州でも同様の法案が州議会を通過しましたが、知事が拒否権を発動し、不成立となりました)。一方、いくつかの大都市では、トランスジェンダーの権利を拡大しようと動いています。ニューヨークのデブラシオ市長はこの3月、性自認に基づいた公衆トイレ利用を認める行政命令に署名しました。フィラデルフィア市は最近、民間企業に対し、1人用のトイレに「ジェンダー・ニュートラル」な表示をするよう義務づけました。    

このトランスジェンダー差別法に対し、多くの企業や行政が抗議し、事業撤退などの対抗措置を始めました。
 ニューヨーク州のアンドルー・クオモ知事、首都ワシントンのミュリエル・バウザー市長、そしてジョージア州アトランタのカシム・リード市長が、自治体予算でのノースカロライナ州への出張を禁止しました。  

4月5日には決済サービス企業のペイパルが、同州最大都市のシャーロットで計画していた事業所の設立を中止すると発表しました(400人の雇用を生むはずでした)。IBMやリーバイ・ストラウス、AT&T、トヨタなども反対を表明しました。
 3月24日、NBAは、以下のような声明を発表しました。「NBAは、我々の試合、またはイベントに参加してくださる全ての方々にとって開放的な環境作りに力を入れています。我々は、この差別的な法が、NBAの指導原理である平等、相互尊重の精神に逆行しているのではないかと、深く懸念しています。今回の法が、シャーロットで開催される2017 NBAオールスターゲームを成功に導ける我々の手腕にいかなる影響を与えることになるのか、現時点では定かではありません」   

3月25日、ノースカロライナ州ダーハムで開催される予定の音楽、アート、テクノロジーの祭典【モーグフェスト(Moogfest)】も、この法案を非難しました。「【モーグフェスト】は本拠地ダーハム、アッシュビル(昨年までの開催地)の伝統、ノースカロライナ州全域の友人たちを誇りに思います。しかし、この法律、または排除や偏見を可能にしたり促すようないかなる法律に断固として反対します。我々はノースカロライナで一歩も引きませんし、ステージ・路上・ソーシャルメディアと、あらゆる機会を使ってこの法律に抗議します」  

4月8日、ノースカロライナ州グリーンズボロで10日に公演を予定していたブルース・スプリングスティーンが、公演のキャンセルを発表しました。「ファンの皆さん、ご存じの通り、私は今度の日曜日にノースカロライナ州グリーンズボロで公演することになっています。私たちがこれまた知っての通り、ノースカロライナ州では『公共施設のプライバシーと安全法(Public Facilities Privacy and Security Act)』として知られる、トランスジェンダーの人々がどのトイレを使用するかを指図する法律が通過しました。LGBT市民の人権が職場で侵害された場合、彼らが法に訴える権利を攻撃もするという意味でも同様に由々しき法律です。そのような重荷に直面するノースカロライナ州民たちは他にいません。思うにこれは、この国が国民全員の人権を認めていく中で遂げてきた進歩についていけない人々の試みではないでしょうか。現在ノースカロライナでは、たくさんの団体、事業、個人が、このマイナス方向の発展に抗い、克服すべく取り組んでいます。これらすべてを鑑みるに、今は私とバンドのメンバーたちがこれらのフリーダム・ファイター(自由を求めて闘う者)たちとの団結を示すときだと感じています。結論として、グリーンズボロの熱心なファンのみなさまには心からのお詫びを申し上げますが、私たちは4月10日(日)に予定されていたショウをキャンセルしました。世の中にはロック・ショウよりも大切なものがある。そして今私が書いている間も行われている、先入観や偏見との闘いはそのひとつなのです。私たちを前進させる代わりに逆行へと押しやり続ける者たちに反対の声を上げるには、これが私の持つ最強の手段なのです」  

ザ・ビートルズのドラマー、リンゴ・スターも4月13日、ノースカロライナ州で物議を醸している新法へ抗議する多数のアーティストに加勢し、6月18日に同州ケーリーで予定していた公演をキャンセルしました。リンゴは、「同地域のファンをガッカリさせて申し訳ない。ただ、我々はこの憎悪に対して明確な姿勢を打ち出す必要があるのです。愛と平和が広まるように」と語っています。
 そして5月には、オバマ政権が、全米の公立学校に対してトランスジェンダーの生徒・学生に自認する性別に基づいたトイレの使用を認めるよう要請する指針を通達しました。  

日本でも今後、公共の場所や職場などでのトランスジェンダーのトイレ利用をめぐる議論が起こってくるでしょう。LGBTフレンドリーを目指す企業の皆さんにおかれましては、トランスジェンダーの方たちの性自認を無視して戸籍上の性別に従うようにという判断は差別にあたるものである、非難やボイコットの対象になりうるということを認識された方がよいでしょう。


参考:米で過熱するトイレ法論議、経済界にも多様性問う 2016.5.12 日本経済新聞電子版

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