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LGBT関連ニュース

トランスジェンダーが安心してトイレを利用できるような職場環境整備について、トイレメーカーなど様々な方たちが研究・提案を行っています

記事日付:2017/08/24

 社内でLGBT施策を進める企業が増えつつあありますが、その一環としてしばしば議論に上るのがトランスジェンダーのトイレ利用についてです。昨年ニュースになったSOMPOホールディングスのように職場内に「だれでもトイレ」を設置したり、今年5月にオープンした「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」にALL GENDERトイレが設置され、東京レインボープライドにも初協賛して評判となったドン・キホーテのLGBTフレンドリーな取組みとして注目が集まったり(ただし、一部メディアで「LGBT用トイレ」と報道されたせいで、当事者から「LGBT専用などと書かれたらカミングアウトしていない当事者は入れない」「逆にLGBTは男性用/女性用トイレを使うなということか」といった声も上がりました)、すでに施策を進めている企業もある一方で、トイレをどのようにすればトランスジェンダーの従業員が安心して使えるようになるのかわからないという企業も多いようです。コミュニティ内でも意見が一様ではなく、複雑さをはらんだテーマではありますが、今月、「「LGBT用トイレ」は的外れ、トランスジェンダーが困らない職場環境整備の本質を解説」(ビジネス+IT)をはじめ、この問題を考える際のポイント(困っているのはどんな人か、気をつけるべきこと、など)に迫る記事がいくつか掲載されていましたので、ご紹介いたします。
 
 弊社のセミナーでもお伝えしているように、LGBT施策と一口に言っても、性的指向についてのマイノリティであるLGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)と、性自認についてのマイノリティであるT(トランスジェンダー)とでは、職場で(あるいは日常生活で)直面しがちな困難に異なるところがあります。
 トランスジェンダーが直面しがちな困難の一つは、自身が望む性別で働きたい(性自認を尊重する職場環境であってほしい)という願いがなかなか叶えられず、大きなハードルがあるということです。特に性別移行途中の方やXジェンダーの方など、見た目の性別が非典型な方の場合、戸籍上の性別と自認する性別(見た目の性別)のどちらで就職活動に臨むか、職場でのトイレや更衣室はどちらを利用すべきかという壁があります。また、働きながら性別移行をするには職場の理解とサポートが不可欠ですが、理解を得られずに苦しんだり、退職に追い込まれてしまうこともあります。(キリンがトランスジェンダー社員の支援策として、性別適合手術などのために最大60日の有休を取れるようにしたのは、たいへん支援的な施策と言えます)

 特定非営利活動法人虹色ダイバーシティとLIXILが共同で2015年に実施した「性的マイノリティのトイレ問題に関するWe b調査」によると、トランスジェンダーの約65%が「職場や学校のトイレ利用で困る・ストレスを感じることがある」と回答しています。
 その理由のトップ3は「周囲の視線が気になる」「だれでもトイレ(車いす利用者、子ども連れの方、オストメイトの方などさまざまな人に使いやすい多機能トイレ)を利用する際に、障がい者や高齢者、子連れの方と遭遇すると気まずい」「他の利用者から注意されたり痴漢と思われないか不安」というものです。いずれもハード面ではなく、他のトイレ利用者との関係性によるものです。 
 性別移行が自他ともに認めるほどスムーズにできている(見た目の性別と自認する性別が一致している)方は、ほぼ問題なく男女別のトイレを利用できているようですが、それでも、FtM(出生時の性別が女性だったトランスジェンダー男性)の方の場合、男性用トイレの個室の数が少なくて苦労することがあるなど、細かな課題はたくさんあります。
 
 トランスジェンダーが働きやすい職場環境づくりの基本は、「本人が望む性別で働けることを最大限尊重する」にはどうすればいいのか、と寄り添う姿勢です。
 よく「LGBT専用のトイレを用意すればいい」と誤解されるのですが、そうではなく、求められているのは「使いたいトイレを何のトラブルもなく利用すること」です。「LGBT向けトイレ」「LGBT用トイレ」という言い方やニュアンスは、男性用/女性用トイレからLGBTを排除しようとする意図すら感じさせ、問題をはらんでいます。

 ここ数年で、企業や学校、自治体の取組みとして、だれでもトイレを増設したり、トイレサインに「ALL GENDER」などの表記を加える施策も広がりを見せています(ホテルグランヴィア京都全日本空輸大阪大学京都精華大学渋谷区豊川市など)。当事者からは、トランスジェンダーへの配慮を示す施策であることは歓迎しつつも、男性と女性の特徴を併せ持ったピクトグラムが「あしゅら男爵のようだ」などという批判の声も上がっています。
 では、トイレのサインとしては、どのようなものが望まれるのでしょうか。1つのケースをご紹介すると、2015年、香川県高松市の市民団体PROUDが「どんな性別の方でも使えるトイレのマーク」としてどういうものがよいかをコミュニティ内で募集しており、結果、レインボーカラーなどLGBTを強調したものではない、誰もが使えるマークが採用されています(詳しくはこちら

 まさにトイレ利用に関して困難を覚える当事者であるMtXの鈴木信平さんは、現代ビジネスの記事「私のトイレ事情〜排泄欲求としての「性」と対峙する」の中で、ドン・キホーテの「ALL GENDER」トイレ設置のニュースを聞いて「嬉しかった」とコメントしています。「確かに「ALL GENDER」用トイレに颯爽と向かえば、その姿を見た人からは好奇の目が向けられるかもしれない。それこそ、人の目にも明らかに、心の性に典型的な容姿を獲得した人ならば、その目を避けたいと思うのかもしれない。けれども、それこそ「多様性」と思ってもらえれば良い。表現に正確さは欠けるかもしれない。理解に誤解もあるかもしれない。それでも、良いじゃないの。よちよちと歩き出した一歩を喜んで幸せとしたい。それを積み重ねていくことが、誰もが幸せになれる日への一番の近道になると、私は信じている」

 しかし、「ALL GENDER」トイレさえ設置すればトイレ問題がすべて解決、というわけではありません。トイレ問題の本質はハード面ではなく、いかに周りがその存在に慣れ、理解し、寄り添い、一緒にトイレを快適に使っていくかという点にあるからです。

 7月9日、虹色ダイバーシティの主催で「性的マイノリティとトイレフォーラム」が開催されました。「安心・快適のトイレ環境を目指して」という副題に集約されるように、だれもが安心して快適に使えるトイレ環境について、トランスジェンダーの方、トイレ研究の専門家、トイレメーカーなどが一堂に会して語り合うイベントでした。
 登壇したLIXILの日野晶子氏からは、トランスジェンダーの方へのヒアリングを重ね、だれもが使いやすいトイレのあり方を研究した結果、トイレの機能分散の一環として「車いす優先トイレ」と「広めトイレ」に分離・併設する案が紹介されました。「広めトイレ」というのは、「ある程度の広さは必要だが、車いす使用者用トイレほど広くなくていい」というコンセプトからきており、トランスジェンダーだけでなく「たくさん人がいると落ち着かない」「狭いトイレブースが苦手」といった一般トイレを使いにくい方、異性の親子、介助者が異性のケースなど、さまざまな場面を想定したものだそうです。 

 8月9日に開催された「第4回 LGBT-Allyシンポジウム」では、TOTOがLGBTに配慮した公共空間のトイレの設置に関する発表を行いました。1970年代からユニバーサルデザインを考えてきたTOTOは、パブリックトイレ空間の提案にも携わっており、2年前にトランスジェンダーの方から問い合わせを受けたことをきっかけに、当事者にもヒアリングを重ね(「1回家を出たら帰るまでトイレを利用できない」「だれでもトイレが唯一のシェルター」といった声が紹介されました)、どのようなトイレが望ましいのか、研究を重ねてきたそうです。当事者の方は、共用トイレを利用することが多いが、車いすの方への申し訳なさを感じる(注意されることもある)ため、周囲に理解を求めることが必要、そして、多機能トイレの横に男女共用トイレがあるとうれしい(ただし「LGBT専用」ではない)といったお話でした。TOTOの取組みについては、こちらに詳しく紹介されています。

 また、8月には金沢大、コマニー(小松市に本社を置く間仕切りなどの製造会社)、LIXILが共同で「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会」を発足させたというニュースもありました。性的マイノリティを含めすべての人が使いやすいオフィストイレを議論、提案するもので、来年3月までに実際に整備できるトイレの姿をまとめるそうです。

 こうして、いろいろな立場の方がトイレ問題について考え、議論し、より良い姿を提案し、解決に向けて尽力してくださっています。
 
 排泄は睡眠や食事などと同様、人間の生命維持活動の根幹であり、我慢しろなどとは到底言えるものではありませんが、現実にはトイレを利用できず我慢を余儀なくされている(排泄障害を患ったりする)方たちがいらっしゃいます。この問題への対応は喫緊の課題と言えますが、問題の根本原因は世間の性的マイノリティへの無理解(蔑視や偏見、差別)ですから、当事者がより使いやすいようなトイレの設置というハード面での施策だけでなく、トランスジェンダーを差別しないインクルーシブな(支援的な)職場環境づくりが求められるということをご承知いただきたいと思います。
 


参考記事:
「LGBT用トイレ」は的外れ、トランスジェンダーが困らない職場環境整備の本質を解説(ビジネス+IT)

【公共空間トイレ】TOTOが「LGBT-Allyシンポジウム」に参加 LGBTへの配慮や調査結果を発表(日刊建設新聞)

金沢大とコマニーとLIXIL、「オフィストイレのオールジェンダー利用に関する研究会」を発足(日経新聞)