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厚労省が全国の児童養護施設に「性的マイノリティの子どもに対するきめ細かな対応の実施」を通知

 8月17日、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課が、全国の児童福祉主管課に対して「児童養護施設等におけるいわゆる性的マイノリティの子どもに対するきめ細かな対応の実施等について」という通知を発出しました。
 
 以下に通知の内容(ほぼ全文)をお伝えします。
「児童養護施設においては、子どもに関する問題や特性が多様化しており、より個別的・専門的な対応が必要となっています。このため、個々のニーズに応えられるよう、計画的に支援が行われているところです。
 性同一性障害等のいわゆる性的マイノリティとされる子どもに対しても、同様の丁寧な対応が必要と考えられることから、文部科学省における取組(文部科学省作成のリーフレット「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について」(教職員向け))も参考に、児童養護施設における性的マイノリティの子どもに対するきめ細かな対応の実施等について、管内児童福祉施設や里親等に対して、周知をお願いいたします。」
 
 今年4月、大阪市が全国で初めて同性カップルを里親に認定したという素晴らしいニュースがありましたが、視点を変えてみると、里親などの社会的養護を必要とする子どもたちの中にも性的マイノリティの子どもがいるわけで、児童養護施設でそういう子どもたちがいじめられたり、様々な問題に直面しているのではないか、施設の職員は問題に対応できているのか(理解があるのか)、といった話もあります。
 この問題について、以前から「LGBT×社会的養護」について活動してきた非営利法人「レインボーフォスターケア」が、児童養護施設の職員から「性的マイノリティと見られる子どもがいるが、どう対応すればいいかわからない」という相談を受けるようになったことをきっかけに、具体的な対策を考えるため、大学の研究者3人と協力し、全国的な実態調査を初めて行いました。昨年11月から全国約600ヶ所の児童養護施設に調査票を発送し、約200施設から回答を得て、結果を集計し、今年5月末に報告会を開催しました(詳しくはこちら
 その結果、児童養護施設の職員が性的マイノリティだと推察する子どもが「現在いる」と答えた施設は10.5%、「過去にいた」が28.6%、全体の半数近くの施設が、かつていたか現在いると回答しました。「同性愛の傾向がある」子どものほか、例えば男の子では「声変わりやひげなど第二次性徴の体の変化に嫌悪感を抱く」「女子用の衣服や女の子との遊びを好む」「入浴で裸を見られるのを恥ずかしがる」など、女の子では「中学校のスカートの制服に抵抗する」「男になりたい、男に生まれたかったと言う」といった子どもたちだそうです。職員は、トランスジェンダーだと思われる子どもについて、「施設の都合上、個室が取れない。男女で生活スペースを分けているので、受け入れが難しい」「他の子どもやその家族への説明が難しい」といった悩みを抱えている方が多かったそうです。また、「性の多様性について職員全体の意識が低く、子どもはそういう雰囲気を感じ取るため、周りに言いにくい状況になっている」など、職員自身の課題を訴える声もありました。制服のスカートの着用をしなくてもいいように学校と調整するなどの対応を行った施設では、職員に対して子どもが前よりオープンに話をするようになったり、ほっとした表情になったという報告がありました。
 また、全体の約半数の施設が「職員向けの性的マイノリティについての研修を行っていない」と回答していたほか、「昔ながらの感覚で、性別には男と女しかいないと思い込んでいる職員がいる」「トランスジェンダーの児童のことを、他の児童や家族にはどう説明すればいいのかわからない」などの回答から、性の多様性に関する職員側の意識が全体的に低いという実態も明らかになりました。「レインボーフォスターケア」の藤めぐみ代表理事は「児童養護施設は学校とは違う生活の場なので、職員には独自の対応や研修が必要です」と指摘しています。

 この調査を受けて、NHKや大手新聞が児童養護施設にいる性的マイノリティの子どもたちのことをニュースとして取り上げ、世論を喚起しました。
 6月13日には参院厚労委員会で牧山弘恵委員(民進)が児童養護施設で過ごす性的マイノリティの子どもへの配慮について質問し、古屋範子副厚生労働相が、「文科省の取り組みを参考に(行政の担当者などの)全国会議を通じ、しっかりと周知したい」と回答しました。
 そして、6月16日には、児童福祉法改正の付帯決議で「性的マイノリティの入所者の存在を考慮し、適切な対応について研究を進めること」とされました。
 さらに、「新たな社会的養育の在り方に関する検討会」が取りまとめた「新しい社会的養育ビジョン」が7月31日に発表され(最終版は8月2日に厚労省へ提出)、「性的マイノリティの子どもなどについて、差別されることがあってはならず、このような子どもに対し、児童福祉施設の職員や里親等は適切な対応ができるような技能を身につけるようにする必要がある」と記されました。「差別されてはいけない」という文言は、現状の性的マイノリティに関する施策においては、まだあまり見られないところであり、大きな前進と言えます。
 この「新しい社会的養育ビジョン」の方針を受けて、今回の「児童養護施設等におけるいわゆる性的マイノリティの子どもに対するきめ細かな対応の実施について」の通知が発出されることになったものと思われます。

 全国の児童養護施設で約3万人の子どもたちが生活しており、その中に約2400人※の性的マイノリティの子どもたちがいるだろうと考えられます。今後、施設の側も配慮を求められることになり、職員の方々が研修を受けたりしてLGBTへの理解を深めていくことでしょう。様々、課題もあるでしょうが、他の子どもたちとの共同生活の中で孤立したり悩んだりすることが少しでも減っていく見通しが立ったことは、本当に喜ばしいことです。
 
※博報堂DYグループLGBT総合研究所(2016年)、連合(2016年)の調査で、LGBTの割合は全体の8%とされています


参考記事:
"毎日が修学旅行のつらさ" 施設で暮らすLGBTの子どもたち(NHK)
LGBT 児童養護施設の4割に 「入浴」「からかい」悩む 個室なく配慮困難、職員知識不足(毎日新聞)
ほか

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