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性別適合手術を健康保険の適用対象にするよう、当事者団体などが要望書を提出

 3月22日、GID(性同一性障害)学会、日本精神神経学会など5つの学会と当事者団体「gid.jp」が、ホルモン治療と性別適合手術への保険適用などを求める要望書を古屋範子・厚生労働副大臣に手渡し、記者会見を行いました。
 2016年に戸籍の性別を変更した人は885人に上ります(性同一性障害の国内受診者はのべ2万2千人)。性同一性障害特例法に基づいて戸籍の性別を変更するためには、性別適合手術を受けて精巣・卵巣を取り除き、変更先の性別にあった性器をつくる必要がありますが、この手術は、健康保険が適用されない自由診療となっています。山梨大医学部の百澤明准教授によると、乳房を切除する手術の費用はおよそ60万〜70万円。男性から女性への性別適合手術の場合、140万〜150万円かかります。また、ホルモン治療も自由診療となっているため、医療費は「医者の言い値」になる。大学病院などでは1回1000円〜2000円のケースもありますが、受診機関や頻度によっては月額負担が1万円を超えるケースもあるそうです。
 記者会見で当事者の方たちは「私にとって、ホルモン治療と性別適合手術は、生きるために必要なものでした。単に身体を変えたいとかじゃない。そのことをわかってほしい」「本当ならもっとはやく治療を受けたかったけれど、保険適用がないので受けられませんでした」と語りました。
 GID学会理事長の中塚幹也・岡山大学教授は、性別適合手術を受ける人の多くが、タイなど海外で手術を受けており、国内での手術は全体の3〜4割にすぎず、その背景には保険が適用されないことがあると指摘します。
 GID学会は昨年から「認定医制度」を開始し、医療の質向上に努めています。中塚教授によると、技術的に手術ができる医師は国内でも大勢いるので、保険適用になれば、より多くの医療機関で治療が受けられるようになるはずだといいます。
「gid.jp」代表の山本蘭さんは「手術もホルモン治療も、非常に価格が高い。性同一性障害の当事者は就労がままならないケースも多く、負担が重くのしかかっています。主要先進国では、多くの国で保険適用になっています。このままではホルモン療法を受けられる医療機関も、なかなか広がっていかない」と訴えました。

 また、2月上旬には、岡山県のFTMトランスジェンダーの方が、性別適合手術を受けずに戸籍上の性別を変更することを家裁に訴え、申し立てが却下されるという出来事がありました。 
 LGBT問題に詳しい前園進也弁護士は、以下のようにコメントしています。
「性同一性障害者特例法には、生殖腺喪失・生殖機能喪失(同3条1項4号)、外性器(同5号)の要件が定められています。つまり、性別適合手術を要件としていますが、私は見直すべきだと考えます。
 この要件がある以上、当事者は、手術をするか、法律上望まない性別で生きるかの選択を強いられます。経済的な理由などで手術を受けられない人や、手術までは望んでいない人にとっては、酷な要件となるからです。
 そもそも、手術を要件とされている理由は、端的にいうと、「手術をせずに法律上の性別の変更を認めると、周囲の人々や社会が混乱するので、それを避ける」ということです。
 たとえば、女性としての生殖機能を残しつつ、法律上、男性に変更できるとすると、法律上の男性が出産することが起こりえます。また、外性器を手術しないと、男性器のある女性が女湯に入ったり、男性器のない男性が男湯に入ったりということが起こりえます。
 しかし、このような混乱が日常生活で生じるとしても、その範囲は限定的だと思います。
 たとえば、男性が出産することになっても、混乱が生じるのは妊娠から出産、せいぜい卒乳の時期までです。また、性別を変更したいと望んでいる人の多くは、無用な混乱を生じさせたくないと思っているでしょうから、公衆浴場や更衣室などでは、タオルなどで下半身を隠すのではないでしょうか。
 このような混乱が限定的であれ日常生活で生じたとしても、最初は驚くでしょうが、慣れて、めずらしくなくなれば、混乱は生じなくなるでしょう。しかし、手術要件があり続けるかぎり、それで苦しむ人々は今後も苦しみ続けます。どちらを優先するかは、明らかだと思います」

 WHO(世界保健機構)やアムネスティインターナショナルなどの国際人権団体は、性別適合手術をID(公的書類)上の性別を変更するための条件にすべきではないという考えを示しています。
 世界を見渡してみると、2012年にアルゼンチンで性別適合手術やなしに公的書類の性別を変更できるようになったのを皮切りに、コロンビア、デンマーク、アイルランド、マルタ、ボリビア、エクアドル、ウルグアイ、台湾、スウェーデン、ノルウェー、カナダ、フランス、アメリカの一部(ニューヨークやカリフォルニア、ワシントンD.C.など7地域)、メキシコの一部(メキシコシティ)などでも同様の権利が認められるようになりました。オランダでは、政府が個人の性別を公的書類に記録する必要があるのかという議論が始まっています。
 その他、オーストラリアやニュージーランド、インド、ネパール、バングラデシュでは、公的書類での第3の性の表記(X、Oなど)が認められています。
 
 こうしてみると、男性/女性の存在しか認めません、性別を変更する場合は必ず手術を受けてください、手術には保険が効かないので100万円以上かかりますが自腹でお願いします(なお、結婚している人と未成年の子どもがいる人は性別変更できません)という日本の現状は、当事者にとってあまりにも厳しいものであり、国際的にも遅れていると言わざるをえないのではないでしょうか。
 


参考記事:
性別変える手術の保険適用を 団体が厚労省に要望(テレビ朝日)
性別適合手術「100万円以上」負担重すぎ海外へ 当事者・医者らが保険適用を要望(Buzzfeed)
性同一性障害、海外では「手術なし」で性別変更できる国も…日本ではどうすべき?(弁護士ドットコムニュース)

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