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LGBTへの差別や排除が大きな経済損失を生んでいる

国連広報センターが製作した「排除の代償」というメッセージ動画をご覧になったことがある方もいらっしゃるかと思います。

「職場での差別」が横行しています。LGBTの5人に1人が職場での差別を経験しています。LGBTの人々の中での失業、貧困、食糧不足、鬱の割合が高いとの調査結果があります 。 

一人ひとりにとっては、これらの問題はパーソナルな悲劇ですが、より大きな社会にとっては莫大な人間の可能性の消失なのです。才能、創造性、生産性の損失は、社会に、そして経済に重くのしかかります。

39ヶ国で行われた調査では、その国におけるLGBTの疎外と潜在的経済生産における損失に相関が見られました。

ホモフォビア(同性愛嫌悪)やトランスフォビアのコストは甚大です。労働力の縮小、才能の逃避、生産性の損失が発生します。  
世界銀行の最近の試験的研究では、LGBTへの差別はインドの経済規模と同等の年間320億ドルに及ぶ損失を生み出します。成長の妨げは税収に影響を及ぼし、保健、教育、その他の重要な公共サービスの低下を招きます。 国連が人権、開発の視点から、ホモフォビアやトランスフォビアをなくすための取り組みを呼びかけるのは当然と言えます。この負の連鎖は断ち切ることができるのです。  

より多くの国々、企業がホモフォビアやトランスフォビアをなくすための取り組みに利点を見出しています。 企業にとってそれは新しい経営方針の採用を意味します。すべてのLGBTに安全、公平、受容が保障される職場を創出し、取引企業間における反差別を強化する取り組みを評価します。国々にとっては、新しい法律、効果的な公共教育と研修の実施を意味します。その結果として、自由で平等な世界が生まれます。そしてさらなる繁栄がもたらされるのです」    

LGBT差別による経済損失についての新しい調査結果を、米経済学者が発表しました。米マサチューセッツ大学アマースト校のリー・バジェット教授が2014年10月に発表した研究結果によると、インドでは職場におけるLGBTへの差別によってGDPが1.7%、金額にして約3.6兆円が消失しました。バジェット教授は2016年3月3日に開いたエコノミスト・グループのイベントで、「単にLGBTを不公平に扱うことで、何十億ドルもの損失が発生している」と強調しました。経済損失が発生する原因の一つは、LGBTの雇用差別によって労働力の供給が制限され、生産性が低下することです。さらに、LGBTというグループ内の人的資本の投資が非効率的なために収益が減少したり、差別的な待遇によって健康を害して生産が減少したりすることも挙げられています。バジェット教授は「能力に見合った仕事を得られず、支払われる補償金も通常より低いため、LGBTはつらい思いをしている」と指摘します。能力を十分に発揮できず賃金が減少することで、生産性は10%低下しているといいます。 バジェット教授は「経済成長とLGBTの権利拡大は密接に関連している」と語ります。経済成長がLGBTの権利拡大の助けとなり、LGBTの権利が向上すればいっそうの経済成長を促すという考えです。 裕福な国ほど個人の自由な権利を認める傾向が強いとしつつ、「アジアの途上国でLGBTの就業機会が広がれば、経済発展により貢献する」との見方を示します。  

一方、企業の立場から見ると、LGBTを受け入れる環境を整えれば離職者が減り、社員の採用や確保もしやすくなるため、コストを大幅に節約できます。「LGBTが働きやすい環境であれば、健康で仕事にも打ち込めるために離職率も下がる」  
産業界には、寛容で多様性のある社風の方が企業にとって得になると気づいた人々もいます。野村証券シニア・リレーションシップ・マネジメントのグローバル・ヘッド、ローラ・アザレー氏は『エコノミスト』誌のイベントで「同じような人ばかりでは、創造性や革新、才能は生まれてこない」と語りました。 アザレー氏は2015年、自社が東京レインボープライドでスポンサーを務めた後、将来入社する可能性のある人の構成比率が劇的に変わったことに気づきました。「我々のブランド戦略は完全に変わった。もはや野村は伝統的な企業という認識ではなくなった」と語ります。野村は2008年、買収したリーマン・ブラザーズの「LGBT支援」という文化も継承。現在、野村は賃金を査定する際に「文化的行動」という基準を使っており、中間管理職にも定期的に「文化的多様性」を研修させています。

香港のNPO法人「コミュニティ・ビジネス」の2015年の調査で「LGBTを最も受け入れている企業」に選ばれたゴールドマン・サックスも、「心に訴えるビジネス事例」を積極的に支援しています。2015年は「ピンク・フライデー」というイベントに従業員1600人を動員。LGBTコミュニティとのつながりを示す言葉を背中に記したピンクのTシャツを全員が着用しました。

ゴールドマンの個人資産管理部門トップで「アジア太平洋における多様性イニシアチブ」共同議長のロナルド・リー氏は、「ゴールドマンの多くの行動を通じて、我々は目に見えないものを可視化しようとしている。皆が自分らしくしていられれば、企業の業績も上がる」と力説しました。 巨大IT企業であるグーグルは、営業しているアジア太平洋13市場のうち11ヶ所で、社員の同性パートナーに福利厚生の付与を推進してきました。  

コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニーは、LGBTが良い成果を出せる環境で働けるよう、彼らを受け入れてくれる世界中のどこにでも移住が可能な支援をしています。豪カンタス航空で2008年から最高経営責任者(CEO)を務めるアラン・ジョイス氏は、カトリック教徒が大半を占めるアイルランド出身で、ゲイであるとカミングアウトした数少ない企業幹部の一人です。ジョイス氏は「企業のトップが発する言葉は決定的な意味を持つ」と指摘し、LGBTのビジネス・リーダーや政治家が、自らの性的指向や性自認をオープンにすることは極めて重要だと訴えます。

重要性を認識しているのは、大手企業だけではありません。投資家や中小企業も、潜在的な市場としての「LGBTコミュニティ」にいちだんと注目しています。 英エジンバラに拠点を置く新興市場向け投資ファンド、スチュワート・インベスターのアマンダ・マックラスキー持続的投資部長は、信用できる投資家は年次報告書で、ただ企業の業績を調べるようなことはしない、「どのようにLGBTの課題に取り組んでいるかを見る。その視点こそ、より広範な人材管理の基準になっている」と語ります。

米ロサンゼルスに本社を置くグラインダーは、LGBTビジネスで成長しています。ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にSNSを運営し、世界196ヶ国で200万人以上が利用しています。同社はブラジルやメキシコなど新興国で急速に成長しています。LGBT向け金融サービスの資産管理会社「LGBTキャピタル」を創設したポール・トンプソン氏は、世界のLGBTコミュニティは約4億5000万人に上り、LGBTの市場規模は年間3兆7000億ドルに達するが、表に出ない部分が多いため、需要に見合うビジネスの展開は難しいと語ります。しかし、今後の成長可能性を考慮すれば、差別的と見られる企業は自社ブランドを傷付けることになる、とも。「企業は顧客を認識すべきだ。口先だけでなく、有言実行する必要がある」

参考: 企業損失を招きかねない「LGBTコミュニティー」排除 2016.5.2 日本経済新聞電子版

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