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2015年の企業のLGBT施策の広がりや「アライ」化への時代の流れを見る

2015年12月20付の日本経済新聞朝刊に「LGBT、企業も動く ~多様性生み 強い組織へ~」という記事が掲載されていました。  2015年は、渋谷区の同性パートナーシップ条例施行に伴い、大手生保会社が次々に同性パートナーを受取人に指定できるよう対応したり、携帯各社が同性パートナーにも家族割を適用するようにするなど、多くの企業がLGBT支援の方向に舵を切った年でした。社内でLGBT施策を行う企業も珍しくなくなり、たくさんの企業がLGBTに関心を寄せています。アウト・ジャパンの後藤純一と社外取締役の村木真紀(NPO法人 虹色ダイバーシティ代表)が共著者となっている『職場のLGBT読本』(実務教育出版)が出版されたこともそうした時代の流れを象徴する出来事と言えるでしょう。

「この写真にLGBTの人は何人いるでしょう。わかりますか?」。12月8日、ギャップジャパン(東京・渋谷)でLGBTに とって働きやすい職場づくりを目指す研修会が開かれました。同社は社内のゲイのスタッフが動き始めたことがきっかけで2014年からLGBT施策に取り組み始めました。ゴールデンウィークの東京レインボープライドでは、ブースを出展しただけでなく、会場近くの原宿店のファサードロゴ(店頭の巨大看板)をオリジナルのレインボーカラーのものに変え、店内でLGBTの写真展「OUT IN JAPAN」(撮影:レスリー・キー)を開催するなどして、LGBTコミュニティからも高い評価を受けました。レインボーカラーのファサードロゴはその後、海外のGAPの店舗でも使用され、LGBT市場対応として日本発で海外に波及した、おそらく初の事例なのではないかと言われています。  

2015年4月に電通ダイバーシティラボが約7万人を対象に実施したインターネット調査では、国内で7.6%がLGBTにあたるという結果が発表されました。左利きの人、AB型の人などとほぼ同じくらいの人口ということになります。   

ミクシィの子会社でインターネットでの結婚支援を手がける株式会社ダイバース(東京・渋谷)は2014年、就業規則を改定し、同性カップルも結婚祝い金や結婚休暇を取得できるようにしました。就業規則としては、税制など法律上できない部分以外はすべてLGBTも平等に扱うという日本で最も進んだ内容になっており、2014年8月19日付けの日本経済新聞に取り上げられました。そうしたすすんだLGBT施策を見て、カミングアウトしている従業員(非正規)のロイヤルティが上がり、正社員になったという話もあります。青木治夫・経営企画室長は「ネット業界は移り変わりが激しい。多様な社員を集め、新しいことを考えてもらえる社風を作る必要がある」と語っています。  

こうした企業の取り組みについて弊社の村木真紀は「カミングアウトする人が増えてきたことが背景にある」と見ています。国際基督教大学ジェンダー研究センターと共同で2~3月に実施したアンケート調査によると、LGBTの34%が職場でもカミングアウトしていました。  

2013年末に公布された男女雇用機会均等法の規則(いわゆるセクハラ指針)で、LGBTへの差別的言動がセクハラとみなされるようになったことも追い風となっています。大阪ガスが社内方針でLGBTへの対応を明文化し、KDDIが採用のエントリーシートから性別記載欄を削除するなど、日本の伝統的な大企業の間でも取り組みが広がり始めています。  

経済活動のグローバル化も企業の対応を後押しします。  2015年3月に野村証券に中途入社し、周囲にゲイであることをオープンにしながら人材開発部で働く北村裕介さん(33)は「社内にダイバーシティ(多様性)が浸透していて、とてもやりがいがある」と語っています。野村証券は2008年にリーマン・ブラザーズの欧州・アジア事業を買収し、同社のLGBT支援の文化を引き継ぎました。LGBTを積極的に支援する社員を、英語で味方を意味する「Ally(アライ)」と呼び、社内でも意思表示してもらっているといいます。担当者は「グローバルに人材を集め競争力を高めていく上で、LGBT対応は欠かせなくなった」と強調します。  

世界では米国や英仏など約20ヶ国が同性婚を法律で認めており、米アップルのティム・クックCEOのように自らゲイであるとカミングアウトする経営者も現れ始めました。日本で対応に取り組む企業はまだまだ少数ですが、任天堂が米国で販売したゲームに同性婚の設定がなかったことで謝罪を迫られるなど、対応の遅れは国際的な非難も招きかねなくなってきました。

「もう20社以上落ちています」「面接に行っても一瞬でダメとわかることがある」。12月13日、NPO法人 ReBit(リビット)(東京・新宿)が開いた集会で、LGBTの若者が就職の悩みを打ち明けました。自身もトランスジェンダーである薬師実芳代表は「面接で心ない質問をされることもあり、就活をあきらめる人も少なくない」と語ります。  

2015年3月に実施された大規模な意識調査では、同僚に性的少数者がいることに対し、特に40代管理職の男性で「嫌だ」と答えた人が多かったことが明らかになり、波紋を呼びました。調査に関わった国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおり室長は「日本企業はまず管理職の意識改革が必要」と見ています。  

日本経済新聞の記事は「今年だけのブームに終わらせず、長期的な取り組みが必要になりそうだ」と締めくくられています。

参考: LGBT、企業も動く 多様性生み 強い組織へ 2015/12/20付日本経済新聞朝刊

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